植物の澱粉粒(生澱粉)分解系の鍵酵素は、生化学の教科書にあるようにα-アミラーゼと信じられている。その理由は、本酵素が澱粉粒に吸着し分解するためである。一方、我々はイネのα-グルコシダーゼ(AGと略)も澱粉粒に吸着・分解する現象を見出し、『AGも鍵酵素である』可能性を得た。本研究の目的は、植物AGが示す澱粉粒分解の機構を究明し、本分解系の鍵酵素であることの理論確立と応用研究への発展である。 1. 吸着・分解現象の植物AGへの一般化:一般化を図るためイネ以外の植物AG(工芸作物や穀類由来の3酵素)を精製し、吸着・分解現象を確認した。さらなる一般化のため微生物AG(糸状菌と酵母)の精製を行っており、これらの吸着・分解を測定する。 2. テンサイAGの長鎖基質の認識:5糖~10糖のアカビオシン・オリゴ糖(拮抗阻害剤)を酵素合成した。長鎖基質の認識サイトの決定を目的としたテンサイAGとの複合体結晶の作製に成功した。X線構造解析から当該サイトを推定でき、変異を導入した。変異体の動的解析から構造因子を決定し、当該残基の機能を知ることができた。 3. イネAGの吸着部位の決定:イネAGのC末端領域を微生物AGに導入・交換したキメラ酵素を構築した。キメラ酵素は、澱粉粒への吸着を獲得したので、C末端領域に吸着サイトが存在することが確定した。現在、構造因子の決定を意図したC末端からの削除体や変異体を作製している。 4. 相乗効果:植物β-アミラーゼ(βAと略)とAGによる澱粉粒分解の相乗効果を調べた。βAは澱粉粒を分解しなかった。AGは澱粉粒を分解したが、両酵素を同時に作用させた場合の方が高い活性を示した。すなわち、AGによる澱粉粒の表面構造変化がβA活性を促し、生成物マルトースを与えたと考えられた(マルトースはAGの基質)。本効果は植物組織でも生じている可能性がある。
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