研究課題/領域番号 |
26660080
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田口 精一 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70216828)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ポリヒドロキシアルカン酸 / 乳酸ポリマー / 乳酸分率 / アセトアセチルCoA還元酵素 / 進化工学 / 飽和変異 / 速度論的解析 / ポリマー物性 |
研究実績の概要 |
乳酸重合酵素の開発を契機に、乳酸ユニットをベースとした多様なコポリマーを微生物重合系を用いて合成できる基盤を構築している。乳酸(LA)100%からなるポリ乳酸は、透明性と加工性に優れていることから、バイオベースポリマーの代表格である。一方で、硬質で対衝撃性に難がある。そこで、3HB(3-hydroxybuthanoate)のような他種のモノマーと共重合化することで、軟質化することが可能である。これまで、大腸菌ではLA低分率のコポリマーP(LA-co-3HB)は、大腸菌で効率よく生産できていた。対照的に、コリネ型細菌を使用すると、90%-100%のLA高分率のP(LA-co-3HB)を合成することが分かってきた。本研究では、3HBの分率を段階的に高めることで、60%~90%のLA分率からなるP(LA-co-3HB)を合成することを目的に、3HB-CoA合成酵素(NADPH-dependent acetoacetyl-CoA還元酵素)であるPhaBの進化工学的分子改変を実施した。PhaB4量体は、可動性領域と非可動性領域からなり、基質結合部位は、可動性領域中に存在する。そこで、この可動性領域に限定して、エラー誘発PCR法によりランダム変異を1アミノ酸もしくは2アミノ酸置換頻度に設定して導入した。PhaB酵素の活性向上による3HB-CoA量の増大は、3HBのホモポリマーP(3HB)の細胞内合成・蓄積量に反映できるシステムを指標にした、すなわち、プレート中にポリマー染色色素を含有し、プレート上に生育する大腸菌コロニーの赤色呈色の強弱でポリマー合成量を識別した。本プレートアッセイ系により、野生型を上回るポリマーを合成した陽性クローンを、約2万個のライブラリーの中から2つ取得した。変異解析の結果、2種類の優良変異体には、それぞれ分子内に、Q47LとT173Sのシングル変異が見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
酵素変異体のライブラリー作成とプレートアッセイの条件設定に、予想以上に時間がかかった。また、変異体のほとんどが野生型酵素の活性を下回ると思われる変異体で、元々野生型の還元活性の高さが示唆された。これは、酵素によってはよく見られる現象で、以前P(3HB)重合酵素の進化工学的改変研究でも経験したことである。優良変異体が2個/2万個の低確率で取得されたこととも符合する。しかし、この遅れは研究全体からみれば深刻ではない。すなわち、後続の2種優良変異体の組換え発現・精製は、すでに立体構造決定の際にその実験スキームは確立しているので、早期にリカバリー可能である。むしろ、優良変異体を取得するという最初で最大の課題をクリアできた価値は非常に大きい。
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今後の研究の推進方策 |
まず、2カ所の優良変異部位に対して総アミノ酸置換を導入する飽和変異を実施し、合計40種類の変異体を作成する。次いで、N末端にHis-tag配列が付加するデザインで、融合タンパク質を大腸菌で組換え発現し、酵素精製する。同時に、ウエスタン分析により、変異による酵素活性の向上が、発現量の向上によるものなのか、純粋に酵素活性の変化によるものなのかを検定する。精製に成功した酵素に関しては、acetoacetyl-CoAとNADPHの2つの天然基質に対して、速度論的パラメーターを決定し、変異の効果を立体構造上で考察する。また、酵素学的データを明らかにした酵素については、コリネ型細菌に遺伝子導入し、ポリマーの合成状況を乳酸分率、分子量、生産量、熱的性質、機械的性質を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究自体は優良変異体取得に成功しているなど全く問題なく、優良変異体酵素の精製と速度論的解析に必要な予算分が次年度に合理的に繰り越されることになる。
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次年度使用額の使用計画 |
優良変異体酵素の精製と速度論的解析を平成27年度早期に着手し、優良変異酵素遺伝子導入コリネ型細菌で合成したポリマーの構造・物性・機能との関連付けを行う。
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