実用化されているバイオベースポリマーの代表格であるポリ乳酸を発展させた乳酸ポリマーの生合成系は、独自に開発した乳酸重合酵素を微生物に遺伝子導入することで駆動する。一方で、乳酸ユニットと共重合化される3-hydroxybutyrate(3HB)との分率がコポリマー P(LA-co-3HB)の物性に直接影響を与えることが知られている。この共重合組成は、乳酸重合酵素の基質特異性に加えて2種のモノマーの供給力にも強く依存する。本研究では、acetoacetyl-CoAから3HB-CoAの合成をNADPHに依存して触媒するacetoacetyl-CoA reductase (PhaB)酵素に着目し、本酵素に進化工学を適用することで基質特異性の改変を試みている。昨年度までに、エラー誘発PCRによるランダム突然変異とプレートアッセイによる人工進化実験により、2種類の優良変異体(Q47LとT173S)を取得していた。本年度は、両変異酵素をHis-tagをN末端に付加した形で大腸菌で機能発現させ、速度論的解析に基づく酵素化学的な知見を得ることを計画した。2種の酵素は、活性型で組換え発現することに成功し、actoacetyl-CoA天然基質に対して、特徴的な反応性を示した。すなわち、kcat値に関しては、野生型酵素に比してQ47Lが2.4倍、T173S変異酵素が3.5倍の向上を示した。実際、その効果はCorynebacterium glutamicum細菌中で発現させた時にP(3HB)ポリマーの合成向上に反映した。すでに解明されている野生型酵素の立体構造上でそれら変異効果を考察したところ、基質認識に関与する領域での構造柔軟性に起因しているのではないかという推察がなされた。
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