研究課題
化石資源代替としてのバイオマス利用促進は喫緊の課題である.本研究では,主要バイオマスであるセルロースの酵素糖化において低速度・低収率の主要原因である「2段階の生成物阻害」の解除を目指して実施している.通常β-グルコシダーゼ(Bgl)は生成物グルコースにより強く阻害されるが,放線菌由来Bgl(St1Bgl3)はグルコースによる阻害の程度が低く,濃度によっては活性上昇すら観察される.この本酵素に特徴的な活性化についてメカニズムの解明と酵素分子上の構造因子の同定を行い,新しい酵素活性化機構の提唱を目的として本研究を進めている.構造因子導入によるBglの分子育種,すなわち単糖・少糖による活性化機構を備えた酵素の創出,ならびに糖化反応への異性化酵素等の併用により,セルロース酵素糖化の高速化・高効率化を実証し,酵素科学の立場からバイオマス利用を推進のための基盤的研究を実施する.平成26年度には,βグルコシダーゼSt1Bgl3について,(1)反応・活性化機構の解析,(2)活性化に関する構造因子の特定を実施した.(1)活性化機構解析:St1Bgl3は,グルコースにより活性化するが,この時ほとんど転移反応は起こっていなかった.近年数例Bglのグルコースによる活性化が報告されているが,これらでは,実は糖転移反応による反応速度の向上の可能性が高いのに対し,St1Bgl3は加水分解速度のグルコースによる活性化であることが明らかとなった.各種基質を用いた速度論により,活性化の機構・反応メカニズムを提唱できた.(2)活性化の構造因子候補:St1Bgl3の各種変異酵素を作出し,変異酵素の活性化能を解析・評価して構造因子の特定を進めている.St1Bgl3類似の立体構造既知酵素の構造に基づき,構造因子部位を予想して変異導入のターゲットとしている.
2: おおむね順調に進展している
本年度の試験により,St1Bgl3が各種単糖により活性化すること,速度論的解析から活性化のメカニズムを提唱することができた.特に,反応速度の活性化が,糖転移反応に依存する見かけの生成速度増加ではなく加水分解自体の活性化であることを明示すことができた.これは本研究遂行上大きな進展である.セルロース糖化においては,まずはセルラーゼ(CBH)が二糖を生成し,続いてBglが二糖を速やかに加水分解してグルコースにする.蓄積するグルコースによりBgl活性が阻害されると,二糖が蓄積しこれによりセルロース分解が抑制され,いわゆる「2段階の生成物阻害」の状態となる.従って,グルコースに阻害されないBglが強く求められている.近年いくつかのBglが,St1Bgl3と同様にグルコースにより活性化するとの報告があるが,加水分解速度の増加ではなく,添加したグルコースへの糖転移反応促進に伴う反応速度上昇のようである.これでは,セルロース糖化の観点からは全く有用ではない.これに対し,St1Bgl3では,生成物グルコースにより明らかに加水分解速度の増加が示すことができた.これは,本研究の目的上,極めて重要な事項である.また,単糖活性化も含めた反応機構を提唱することができたため,活性化に関与する酵素部分構造も焦点を絞りやすく,これに基づき変異酵素の作出を進めており,進行状況は良好である.
本研究のポイントとなる「St1Bgl3の二糖加水分解は,生成物グルコースにより活性化される」ことがH26年度に明確に示すことができたため,今後の研究推進は予定通りに推進できる.すなわち,本年度,当初計画通りに次の3点を実施する.(1) 活性化の構造因子の特定:本研究のコアとなるSt1Bgl3のグルコース耐性・活性化機構を酵素タンパク質の構造面から理解し解釈するために実施する.H26年度に続き,活性化機構に基づき構造因子を予想し,変異酵素を作出して行う.本構造因子をタンパク質の一次構造上に落とし込むこと(配列上の特定位置のアミノ酸残基などと特定)が可能であれば,データベース上の既存の多数の配列情報に基づき,グルコース耐性・活性化酵素候補を単なるクラスター解析にとどまらず,精密な指標により精度の高い予測選別が可能となる.(2) Bgl1の分子育種:St1Bgl3関連酵素タンパク質と比較しながら,St1Bgl3および関連酵素タンパク質の改変等行い,セルロース糖化に適したBglの分子育種を行う.適宜(1)の活性化の構造因子試験にフィードバックする.(3) セルロース糖化の実証試験:St1Bgl3および分子育種した酵素を,市販セルロース分解酵素製剤等と組み合わせてセルロース糖化試験を行う.単糖活性化Bglの添加により,糖化反応中の二糖濃度の低下,グルコース蓄積速度と最終収量の顕著な増加が期待される.併せて,異性化酵素等の添加の効果について検討する.
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