研究課題/領域番号 |
26660085
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
稲垣 穣 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (20242935)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リポ多糖 / φX174ファージ / 宿主認識 / 感染 / スパイクタンパク質 / 糖転移酵素 / UDPガラクトースエピメラーゼ |
研究実績の概要 |
大腸菌のリポ多糖に同位体標識を取り込ませるため、UDP-ガラクトース-4-エピメラーゼ遺伝子(galE)やガラクトースをリポ多糖の糖鎖に結合する糖転移酵素遺伝子(waaWやwaaT)の欠失株を作成するべく研究を行なってきた。標的の遺伝子galEの検索に長時間を要している。現在waaWとwaaT遺伝子を大腸菌F2513株から特定することに成功したが、大腸菌C株やF470株では、糖転移酵素やUDP-ガラクトースエピメラーゼ遺伝子を増幅することに成功していない。大腸菌F2513株については、リポ多糖の非還元末端から二番目のガラクトース残基を転移する酵素であるwaaT遺伝子を増幅して配列を決定した。waaT遺伝子の配列を5'および3'末端に含むように、クロラムフェニコール耐性遺伝子をコードしたプラスミドから断片を増幅した。F2513株にエレクトロポレーション法によって、λファージのリコンビナーゼを発現するプラスミドを導入した株を作成することに成功した。そこで、前述のクロラムフェニコール耐性遺伝子の断片を加え、相同組み換えを起こさせて、waaT遺伝子を抗生物質耐性遺伝子で置き換えたwaaT遺伝子欠失株の作成まで到達した。このことから、同様の方法で、リポ多糖のさらに非還元末端側のガラクトースを転移する酵素である、waaW遺伝子を同様に欠失させる実験を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
大腸菌のリポ多糖の生合成に関わり、非還元末端のガラクトースの伸張に特に関連するUDP-ガラクトース-4-エピメラーゼ遺伝子galEやガラクトースをリポ多糖の糖鎖に結合する糖転移酵素遺伝子waaWやwaaTの欠失株を作成するべく研究を行なってきたが、標的の遺伝子galEの検索に長時間を要した。大腸菌の該当の遺伝子配列は、種々のデータベースから入手可能であり、それぞれ良く似た配列を持っているため、当初は容易に遺伝子がつかまると考えていた。しかし、それぞれの大腸菌株の微妙な違いにより配列は異なるためか、単純なPCR方では遺伝子断片が増幅できなかった。Degenerate PCR法によりタンパク質のアミノ酸配列からその保存された領域をコードするDNA配列を推定し、プライマーの設計を行なうことで、いくつかの候補となる遺伝子断片が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
UDP-ガラクトース-4-エピメラーゼ(galE)遺伝子を探し当てるため、新しい方法を試みる。素性のよく調べられている大腸菌K12株において該当のgalE遺伝子を欠損した株を国立遺伝学研究所から入手した。これは、ガラクトース代謝系を欠損しているため、ガラクトースのみを炭素源とする培地で生育できない。本研究で目的としている大腸菌C株、F2513株、F470株のゲノム遺伝子断片を調製し、pBluescriptにショットガンクローニングして、上記のK12ΔgalE株に形質転換し、ガラクトースを炭素源とする培地で生育できる株をスクリーニングして該当の遺伝子を特定する方法に変更する。また、糖転移酵素waaTを欠損したF2513株ΔwaaTに対して、ファージφX174を感染させる実験を通して、ファージの受容体であるリポ多糖の糖鎖構造が変化したことを証明する実験を行なう。また、単離したリポ多糖の糖鎖を質量分析により構造解析を行ないたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究での最終目標である、同位体標識をリポ多糖に取り込ませる実験を行なうために高価な同位体標識ガラクトースが必要である。そのための予算を実験開始当初から計画していたが、現在その試薬を使用する段階まで達していないため、予算の執行を保留している。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度の研究計画でショットガンクローニングを利用する新しい方法によってガラクトースエピメラーゼ遺伝子が特定された場合には、同位体標識試薬の購入に踏み切る。いっぽう、遺伝子の特定が進まない場合には、該当の大腸菌株の全ゲノム配列を解読して、遺伝子の解析を行なう実験に予算を振り向ける予定である。
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