大腸菌C株の合成するリポ多糖に外部から13Cの同位体標識を施したガラクトースを取り込ませるため,UDPガラクトースエピメラーゼ遺伝子galEを欠損させた変異株の作成を検討した。H28年度は,galE遺伝子をゲノムからPCRで増幅し配列をついに決定することができた。これまでゲノム遺伝子配列が知られている大腸菌K-12 W3110株の配列と1塩基が異なるが,アミノ酸配列は同じであった。 また,大腸菌F2513株のLPS生合成のための糖転移酵素のうち,R-コアの非還元末端の二つのガラクトース残基を転移するwaaWとwaaT遺伝子を特定して,λファージリコンビナーゼ活性を活用するDachenkoらの方法を用いて,これらの遺伝子をクロラムフェニコール耐性遺伝子と相同組み換えを行って欠損させた変異株F2513ΔwaaWおよびΔwaaT株の作出に成功した。ただし,これらの変異株は,抗生物質を含む寒天培地上でゆっくり増殖するものの,液体培地ではきわめて生育が遅く,そこからLPSを取り出すまでに増菌せず,LPSの糖鎖構造の確認に至っていない。 大腸菌K-12株のR-コア非還元末端にL-グリセロ-D-マンノヘプトース(Hep)を転移するwaaU遺伝子を保持したASKA(-)クローンJW3598-AM株を国立遺伝学研究所から分譲を受け,そのWaaU酵素を含むタンパク質分画を調製し,ネズミチフス菌(Salmonella)のR-コアの非還元末端の糖残基を欠いたLPSを生合成する変異株SL733に対して作用させたところ,少量ではあるが,サルモネラ菌のLPSの末端にHep残基が取り込まれたことを単離したLPSがDOC-PAGEによって泳動度が低下したバンドを与えたこと,およびLPSの酸加水分解物PSのLC-ESI-IT-MSにより目的の糖鎖に一致するイオンをSIM測定で確認することができた。
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