研究課題/領域番号 |
26660088
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
高山 誠司 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 教授 (70273836)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 植物 / ゲノム / 有性生殖 / 全ゲノム関連解析 / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
有性生殖では、異なる雌雄ゲノム間の相互作用を介して交配相手が選抜され、生まれてくる多様なゲノムの組み合わせを持つ子孫が再度自然選択により選抜される。この雌雄ゲノム間相互作用を介した受精前後の選抜は、種の存続を支える基盤となっているが、系の複雑さゆえに相関遺伝子の実体解明は遅れている。本研究はシロイヌナズナの野生系統を用いた全ゲノム関連解析を、この異種ゲノム間相互作用研究に適用する試みである。本年度は主に以下の2点について解析を進めた。 1.種間不和合性 シロイヌナズナを異種アブラナ科植物と交配すると、様々な段階で不和合性反応が起きることが確認された。例えばシロイヌナズナの花粉を近縁種のナズナと交配させると花粉の吸水、柱頭への侵入といった比較的早期の段階で花粉の伸長が阻害され、雌雄ゲノム間の何らかの不適合が予測される。この時、シロイヌナズナの野生株を多数交配させるとその阻害部位や程度は野生株毎に異なることを見出した。この多様性を利用して今後全ゲノム関連解析を適用し、関与する遺伝子座の抽出を試みる計画である。 2.ゲノムインプリント遺伝子群 シロイヌナズナの胚乳発達は、父母由来のインプリント遺伝子間の相互作用により系統毎にバランス良く調節されていることが示唆されている。実際シロイヌナズナの異なる野生系統間で相互に交配させると胚乳の発達が促進あるいは抑制される例が複数観察された。しかし、一方で胚乳の発達は同系統内の交配でも鞘毎、個体毎にかなり変動することも確認できた。今後こうした環境的・生理要因の影響を避け、遺伝的要因を選択的に抽出する系を確立した後に、胚乳発達に影響を与えている遺伝子座の抽出を試みる計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有性生殖前後における異種ゲノム間相互作用の実態を全ゲノム関連解析を介して抽出する初の試みである。ゲノム間相互作用に起因する表現型の差異を、環境要因や人為的要因を出来るだけ避けて抽出することができるかどうかが本研究の成否を決すると予測される。実際、1番目の課題である種間不和合性に関与する遺伝子座の抽出に関しては、特定の系統の組み合わせ間で比較的再現性の良い結果が得られてきており、予備的な全ゲノム関連解析でも複数の遺伝子座の関与が有意に示唆されてきている。2番目の胚乳発達に影響を及ぼすゲノムインプリント遺伝子座の抽出においても、遺伝的要因の抽出に支障を来す要因の実体がみえてきており、実験手法のさらなる改善により全ゲノム関連解析が可能となる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
1.種間不和合性に関わる雌雄遺伝子群 交配するシロイヌナズナ野生系統の数を増やして全ゲノム関連解析に供し、種間不和合性に関わる遺伝子座候補を抽出する。有意とされた遺伝子座については、SNPsと表現型の関連性、野生株の地理的分布、発現データなどを参考に相関遺伝子候補の絞り込みを行う。また、表現型の大きく異なる2系統間のF2後代を用いた連鎖解析や相補試験等により相関遺伝子座の特定を目指す。 2.胚乳発達に関わる父母ゲノムインプリント遺伝子群 シロイヌナズナ野生系統の遺伝的要因を反映した胚乳発達の度合いを計測する系を確立し、全ゲノム関連解析に供する。抽出された遺伝子座については1と同様な手法により相関遺伝子座の特定を目指す。 3.他の生理現象に関わる相関遺伝子群の抽出 上記以外の雌雄ゲノム間相互作用に起因すると推定される事象に着目し、全ゲノム関連解析を適用できるかどうか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
シロイヌナズナ野生株を多数栽培・交配させ、複数の複雑系に関するデータを取得する計画であったが、環境要因および人為的要因によるデータの振れが予想以上に大きく、遺伝的要因を選択的に抽出する系の確立に時間がかかったため、大量のシロイヌナズナ野生株の栽培と遺伝子解析にかかる経費は平成27年度に集中して使用することにした。また、その作業にかかるアルバイト代等の経費や、その後の全ゲノム関連解析に関する専門家との打ち合わせ旅費も平成27年度に使用することに変更した。
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次年度使用額の使用計画 |
大量のシロイヌナズナ野生株の栽培し、相互に交配させ、複数の複雑系に関するデータ取得と相関遺伝子候補の分子生物学的および遺伝学的解析にかかる物品費を平成27年度に使用する。合わせて、植物の栽培や材料採集にかかるアルバイト代や、全ゲノム関連解析に関する研究打ち合わせ等にかかる旅費も平成27年度使用予定として計上する。
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