研究実績の概要 |
腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)などの食中毒菌の多くは、ストレス環境下では生きているが培養できない(VBNC)状態へと移行するが、その誘導因子に関する知見は乏しい。最近、ストレス応答因子の一つであるトキシン/アンチトキシン(TAシステム)がVBNC状態誘導に関与していることが示唆されている。TAシステムは原核生物のゲノムやプラズミドに存在し、ゲノムの安定化や細胞ストレス耐性因子として機能している。一方、ビブリオ属やシュードモナス属ゲノム中に存在するスーパーインテグロン(SI)は多くの機能未知遺伝子を含み、その構造から薬剤耐性可動因子の祖先と推定されている。我々は腸炎ビブリオゲノムSIにTAシステム・vpparD/vpparEを見出し、トキシンVpParEがDNAジャイレースを阻害することによりDNA複製を抑制していることを明らかにした。本研究では、vpparD/vpparEのVBNC状態移行への関与と生理機能について検討した。 まず、相同組換えによってvpparD/vpparEを欠失した腸炎ビブリオ変異株を作成し、低温低塩(10°C,1.85% NaCl)条件下でVBNCへの移行を検討した。その結果、変異株は野生株と同様に約10日間でVBNCへ移行したことから、vpparD/vpparEはVBNCへの誘導には関与していないことがわかった。続いて、vpparE を強制発現したビブリオ菌の作成を試みたが得ることはできなかった。そこで、vpparEを発現した大腸菌の表現型を検討したところ、大腸菌の形態がフィラメント状に変化し、ゲノムDNAが分解されていることが明らかになった。以上の結果より、vpparD/vpparEは、プラズミドに見出しされたTAシステムと同様に、SIの安定・維持に関与していることが示唆された。
|