研究課題/領域番号 |
26660091
|
研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
織田 昌幸 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (20318231)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 蛋白質 / 金属イオン結合 / 構造変化 / 動的挙動 |
研究実績の概要 |
DeGradoらによりNMRで構造決定されたαヘリックスバンドルを鋳型とし、疎水性コア形成残基となる3残基分をHisに置換し、元はランダム構造をとるものの、金属イオン結合に伴いヘリックスバンドルに構造変化するモデル蛋白質の構築を試みた。構造変化は主に円二色性分散計(CD)を用いて解析した。その結果、3残基分をHisに置換しただけではランダム構造とならず、計6残基をHisに、さらに3残基分をGlyまたはAlaで置換することで、金属結合前後で、ランダムからヘリックスへの構造転移が示唆され、これらをそれぞれHG, HAと命名し、以降のさらなる解析を行った。NMR解析を、亜鉛イオン添加前後で行ったところ、同添加に伴い、HGではヘリックス構造はとるもののバンドル構造ではないこと、HAでヘリックスバンドル構造をとることが示唆された。また高速X線1分子追跡法(DXT)を行うにあたり、HG, HAともにそのN末端にHis-tagを配し、同部位を介して基板上に固定化、さらに金ナノ結晶の結合部位として、第3ヘリックスの溶媒露出面にMet残基を入れたペプチドを用いて実験を行った。亜鉛イオン添加前後でのHG, HAの運動性の違いは有意な差として観測されなかったが、金属イオン添加前の運動性はHGで大きいという結果が得られた。これはCD測定で、HGの方がランダム構造の程度が大きいという結果とも一致した。金属イオン添加時に、同結合がX線放射圧などの影響を受けていないかなどを精査する必要がある。また予備実験程度ながら、等温滴定型熱量計(ITC)を用いて、亜鉛イオンや銅イオンとの結合を観測した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金属イオン結合に伴いランダム構造からαヘリックスバンドル構造へ変化するモデルペプチドについて、当初の予想よりもDeGradoらのモデルペプチドの構造が固く、ランダム構造にできるアミノ酸置換が多く苦労したが、年度内にHG, HAという理想形に近いモデルペプチドに到達することができた。当初の計画通り、CDやDXT測定を行い、各ペプチドの金属添加に伴う構造変化や動的挙動を観測した。特にDXTについては、実験系の問題点などを吟味する必要があるものの、概ね計画通りに推移していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
金属イオン結合の熱力学量を、ITCを用いて決定する。ここで得られるエントロピー変化量を、構造変化の揺らぎの程度の差として定量化する。さらに13C, 15Nラベル化HA(またはHG)を調製し、3次元NMR測定により各シグナルを帰属、さらに亜鉛イオン添加前後での緩和測定を行うことで、各部位の動的挙動変化を定量化する。これらITCとNMRで得られる動的挙動変化は、いずれも統計量ながら、前者は系全体の、後者は部位特異的な情報として、相互に相関づける。一方、DXTでは、1分子単位での運動性が観測できることから、1分子ごとの総和としての運動性の違いが、前記の統計量との違いと如何に相関するかを解析する。さらにHGやHA のHis残基と金属イオンとの結合は、pHを酸性にすると弱まることを踏まえ、ケージドプロトン化合物を各ペプチドと金属イオンとの複合体に加え、同溶液にレーザーを照射することで、pHを瞬時に酸性pHにし、同変化に伴う動的挙動の経時変化を観測することで、蛋白質フォールディングの速度論情報を取得する。
|