研究課題/領域番号 |
26660101
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
藤井 智幸 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40228953)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高圧処理 |
研究実績の概要 |
生物素材内では、高圧処理によって細胞組織の損傷と酵素タンパク質の状態変化が起こる。細胞組織の損傷は、生物組織内部の物質移動を促進するとともに、生体内代謝系の調節を司っていた細胞内小器官の機能破壊を併発する。従って、細胞組織は損傷するが酵素タンパク質はそれほど変性しない圧力処理条件を選べば、圧力に比較的弱い一部の酵素が失活する影響も加わって、通常とは異なる酵素反応経路が働き始め、新しい有益な二次代謝産物が生成することが期待できる。これが、「潜在的二次代謝反応」の発現である。 食品への高圧利用に関する知見が蓄積される中で、高圧処理米を炊飯した場合、通常の米飯では組織構造が一種の「箍」のような役割を果たすために短軸方向への膨潤が抑制され、結果的に長軸方向にのみ膨潤して細長くなるのに対し、高圧処理した米では組織構造が破壊されたため、白米と同じ形状を保ったまま等方的に膨潤することが知られていた。このような高圧によって組織破壊が起こる一方で、玄米に高圧処理を施した後適度な温度条件で保持すると酵素反応が進行してγ-アミノ酪酸(GABA)が増えるという予測のもとに、実験を進めGABAが増加する条件を見出した。このような、高圧処理によって生物素材に新しい特性が顕在化する様子は、まさに「形質転換」であり、このような現象を「High-Pressure Induced Transformation(Hi-Pit)」と呼ぶことを提唱するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高圧処理により、食材の内部組織が破壊されて酵素と基質との会合が容易になると見かけ上酵素反応が促進する。このように食材のセル構造の変換に起因して起こる形質転換によって、機能性成分の富化が可能となる。細胞の破壊の程度を誘電率測定で把握し、高圧処理前、高圧処理後、除圧して保存した過程のそれぞれの段階において、成分分析を行い、生理活性成分の増加を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
高圧処理を施した農産物を破砕した後メタノールあるいは酢酸エチルを用いて抽出した低分子の抽出物について、網羅的解析を試みる。このようにして、反応生成物の生成過程を解析し高圧処理の効果を評価する。高圧処理を施した農産物の持つ各種成分は、高圧処理後の保存中に単調に増加あるいは減少するばかりではなく、極大をもつ可能性もある。このように保存中における生成物の変化を把握する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に必要な試薬のほとんどについては研究室ストックを有していたので、研究開始にあたってはまずストックの試薬を使うこととし、また、無駄を減らすように努めたことによって、新規の試薬購入を抑制することができたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究室ストックがほぼ無くなったため、今後は研究遂行に伴い試薬を新規購入する予定である。これまで同様無駄を減らす努力を継続するとともに、試薬購入に当たっては研究上問題の無い範囲でより安価なものを選ぶように努める。
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