プロタミン分解物を透析により分画し、各分画物を添加した際の筋原線維の物性に及ぼす効果を調べたところ、トリプシン分解プロタミンの透析残留物には、未分解のプロタミン以上に筋原線維の加熱ゲル化を強く阻害する成分の存在が示された。電気泳動法による分子間相互作用の解析から、プロタミンが作用する筋原線維由来のタンパク質はミオシン結合タンパク質Cおよびα-アクチニンと推定された。また、走査型電子顕微鏡観察によるゲルの微細構造の観察から、プロタミンおよび同トリプシン分解物が筋原線維の物性にそれぞれ異なる作用機序で影響を及ぼしていることが示唆された。 すなわち、未分解のプロタミンは、筋原線維のZ線にあるα-アクチニンなどと特異的に結合し、その際、ミオシンフィラメント上に存在するミオシン結合タンパク質Cの可溶化を促進していると考えられた。さらに同混合物を加熱すると、プロタミンが結合したことにより、アクトミオシン同士の結合が阻害され、加熱ゲル形成能が低下したと推察された。一方、トリプシン分解プロタミンの透析残留物は、未分解物とは異なる作用機序で筋原線維のゲル化を阻害していることが示唆された。すなわち、低分解プロタミンの透析残留物は、未分解プロタミンを添加した場合と同程度のゲル化阻害能であったが、ゲル化の主たる要因はアクチンによるものと推察された。一方、高分解プロタミンの透析残留物は、未分解プロタミンを添加した場合よりも強いゲル化阻害能を示したが、その理由として、筋原線維加熱ゲル化の主要因である両タンパク質の不可逆的な不溶化が原因であると考えられた。 本研究の成果は、従来から食品添加物として使用されているプロタミンの用途開発につながるもので、プロタミンおよび同酵素分解物の性質は、これまでとは全く異なる食肉製品を物性改良剤になりうるものと考えられる。
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