研究課題/領域番号 |
26660105
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
榎本 淳 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (70183217)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ミルク / 免疫抑制剤 / T細胞 / 抗原提示細胞 / サイトカイン / アレルギー疾患 / 自己免疫疾患 / マウス |
研究実績の概要 |
ミルクには未知の免疫抑制因子が存在するのではないかという申請者独自の発想に基づき、牛乳より新たに見出した新規免疫抑制物質に関して、下記の1)~3)の知見を得た。 1)新規免疫抑制物質の構造/活性相関の解明:現時点では新規免疫抑制物質の化学合成が完了していないため、その同定の最終的な確認に至っていない。 2)新規免疫抑制物質の免疫抑制メカニズムの解明‐標的細胞の決定を中心として:BALB/c、BALB/c-nu/nu、SKG、OVA-IgE、NODマウスの脾臓およびリンパ節細胞を用いて検討したところ、新規免疫抑制物質が樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞のサイトカイン応答を全く低下させないものの、T細胞の抗原特異的な増殖応答やサイトカイン応答を完全に抑制できることを見出した。すなわち、新規免疫抑制物質の標的細胞は主にT細胞であると結論づけられた。さらに①新規免疫抑制物質が制御性T細胞などの免疫抑制細胞を誘導することで抑制効果を発揮するのではなく、直接T細胞に作用していることや、②新規免疫抑制物質はnaiveなT細胞には影響を与えないものの、活性化T細胞には細胞死を促すことにより、それが抗原や抗CD3抗体などの活性化刺激に対して応答できないようにしていることなどを明らかとした。 3)新規免疫抑制物質のアレルギー疾患や自己免疫疾患の発症に及ぼす抑制効果の検討:新規免疫抑制物質をSKGマウスに腹腔内投与し、慢性関節リウマチの発症を継時的に観察したところ、新規免疫抑制物質がその発症を抑制できないこと、さらにはその理由が新規免疫抑制物質がSKGマウスのマクロファージなどの抗原提示細胞のIL-6応答を全く抑制できないためであることなどを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年度の研究の推進方策は「研究実績の概要」に記したように、1)新規免疫抑制物質の構造/活性相関の解明、2)新規免疫抑制物質の免疫抑制メカニズムの解明‐標的細胞の決定を中心として、3)新規免疫抑制物質のアレルギー疾患や自己免疫疾患の発症に及ぼす抑制効果の検討の3点であるため、それぞれについてその達成度を以下に記した。 1)新規免疫抑制物質の構造/活性相関の解明:新規免疫抑制物質の同定の最終的な確認が完了していないため、「④遅れている」と判断せざるを得ない。 2)新規免疫抑制物質の免疫抑制メカニズムの解明‐標的細胞の決定を中心として:新規免疫抑制物質の主な標的細胞がT細胞であり、さらにその免疫抑制メカニズムの概要を明らかにすることができたため、「①当初の計画以上に進展している」といえる。 3)新規免疫抑制物質のアレルギー疾患や自己免疫疾患の発症に及ぼす抑制効果の検討:新規免疫抑制物質が慢性関節リウマチの発症を抑制できないこと、さらにはその理由も明らかにすることができたため、「②おおむね順調に進展している」と判断できる。 以上の1)~3)の状況を総合的に判断して、「③やや遅れている」と記載した次第である。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の研究成果に基づき、平成27年度の研究の推進方策を次のように設定した。 1)新規免疫抑制物質の構造/活性相関の解明:本研究で見出した新規免疫抑制物質を化学合成し、その免疫抑制活性を測定することにより、最終的な同定の確認を行う。次にこの物質のアナログを多数化学合成し、それらの活性を測定することにより、この物質のどのような構造が活性の発現に重要であるか明らかにし、さらに活性の高い化合物を見出すことを試みる。 2)新規免疫抑制物質の免疫抑制メカニズムの解明:新規免疫抑制物質がT細胞に細胞死を誘導していることが明らかとなったため、どのようにして細胞死を誘導しているのか、そのメカニズムの解明を目指す。 3)新規免疫抑制物質のアレルギー疾患や自己免疫疾患の発症に及ぼす抑制効果の検討:OVA23-3およびNODマウスに新規免疫抑制物質を経口および非経口的に投与することにより、それぞれ鶏卵アレルギーや1型糖尿病の発症率や症状に変化が認められるかどうか検討する。鶏卵アレルギーについては、①血清中のIgE抗体量や②下痢に伴う体重減少など指標として検討する。1型糖尿病の評価は、①尿中の糖の有無および②この疾病の発症原因となる自己免疫応答に伴うIFN-γ産生量などを基準にして試みる。 4)新規免疫抑制物質の生理学的意義の解明:新規免疫抑制物質を正確かつ高感度で定量できる測定系を構築した後、それを用いて種々の牛乳や母乳中に含まれる当該免疫抑制物質の濃度を決定し、その生理学的意義について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの達成度」に記したように、本研究全般、特に「1)新規免疫抑制物質の構造/活性相関の解明」の進捗状況が遅れているために生じたものである。
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次年度使用額の使用計画 |
生じた使用額は全額(294,498円)、平成27年度の物品費に加えて使用し、遅れを取り戻す所存である。
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