研究課題/領域番号 |
26660111
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
裏出 令子 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (90167289)
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研究分担者 |
杉山 正明 京都大学, 原子炉実験所, 教授 (10253395)
佐藤 信浩 京都大学, 原子炉実験所, 助教 (10303918)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | グリアジン / グルテニン / 動的粘弾性 / 量子ビーム小角散乱 / コムギ |
研究実績の概要 |
1.平成26年度は、分離したグリアジン、グルテニンおよびこれらの混合物の純水あるいは食塩水による水和物の動的粘弾性を明らかにした。グリアジンの貯蔵弾性率G'と損失弾性率G"は、0.5M NaClまではほとんど変化しなかったが、1から3M NaClの範囲内でNaCl濃度に依存して急激に増加した。グルテン(グリアジンとグルテニンの混合物)も同様であった。一方、グルテニンの水和物はNaClによる影響をほとんど受けず、3M NaClでわずかにG'とG"が増加した。以上の結果から、グルテンの食塩による物性の変化は主にグリアジンに対する影響であることが明らかとなった。さらに、温度の上昇に伴ってG'およびG"が減少することから、食塩による物性パラメータの上昇は主に水素結合の寄与が大きいことが明らかとなった。 2.一方、グリアジン水和物の保水容量はNaCl濃度の上昇に伴い減少したが、グルテニンとグルテンでは0.5N NaClで最大となり、さらに濃度が高くなると減少した。すなわちNaClのグルテンニンの保水容量に対する影響がグルテンの保水容量に反映されていることが明らかとなった。 3.X線小角散乱分析および中性子小角散乱分析によるナノスケール構造と物性との間には相関関係が見いだされた。すなわち、グリアジンはナノスケール凝集体を形成し、凝集体間の相関距離がNaClの濃度に依存して減少するとともに、より大きなスケールの凝集体構造があらたに形成されることが明らかとなった。一方グルテニンのナノスケール構造はNaClによってほとんど変化しないことから、食塩による物性の変化はグリアジンのナノスケール構造の変化に起因することが強く示唆された。タンパク質架橋剤を用いた実験でグリアジンの凝集体は特定のグリアジンの会合によることを見出した。次年度の研究に必要な、αグリアジンの大腸菌発現系の構築を行い、精製法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.グリアジン、グルテニンの水和物の動的粘弾性に対する食塩の影響について解析し、研究実績に記した成果を得た。本実験により、グルテンの物性に対する食塩の影響が主にグリアジンへの影響によっていることを初めて明らかにすることができた。2.グリアジンおよびグルテニンの水和物のナノスケール構造と動的粘弾性との関係の解明するため、X線小角散乱分析と中性子小角散乱分析を予定通りおこなった。その結果、食塩添加によるグルテンの物性変化とグリアジンのナノスケール凝集体の変化が強く相関しており、食塩による物性調節は主要タンパク質のうちグリアジンを介して発揮されることを明らかにすることができた。3.グリアジン凝集体の化学的解析も予定通り行い、グリアジンの凝集体形成はランダムな分子間相互作用の結果ではなく特定のグリアジン同士の会合によることを発見した。4.αグリアジンとωグリアジンの大量発現系の確立を試み、αグリアジンの発現系を確立した。一方、ωグリアジンは大腸菌内では発現が困難であった。5.超高次構造を含有するダイズタンパク質(NR-SPI)、あるいは含有しないダイズタンパク質(R-SPI)を単離し、冷蔵ゲル及び硫酸カルシウム等を凝固剤とする加熱ゲルを作製するして動的粘弾性を測定した。6.グリシニンとβ-コングリシニンの混合水溶液中で会合しているタンパク質をタンパク質架橋剤で架橋し、会合分子の同定を試みた。
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今後の研究の推進方策 |
1. コムギタンパク質凝集体のナノ構造と食品物性との関係の解明:平成26 年度までに構築できたリコンビナントα、γグリアジン発現系を用いて、リコンビナントタンパク質を調製する。これらのリコンビナントグリアジンの食塩添加・無添加溶液を作製し、X 線小角散乱分析を行い、各グリアジンの慣性半径、形状、ナノ粒子径及びナノ粒子間距離を算出し、ナノ構造のモデルを構築する。また、小麦粉からα、γ、ωグリアジンを従来法で単離し、水和物のX線小角散乱分析を行う。さらに、α、γ及びωグリアジンを重水置換し食塩添加・無添加コロイド溶液を作製し、中性子小角散乱解析を行う。 2.超高次構造体を含むダイズタンパク質凝集体のナノ構造と食品物性との関係の解明: NR-SPI 及びR-SPI 溶液を加熱処理し、気液界面に形成される界面膜を分取する。NR-SPI 及びR-SPI から作製した気液界面膜についてX 線小角散乱分析を行い、ナノ構造体のサイズ及びナノ構造体間距離を算出し構造モデルを構築する。 3. 成果を纏める
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品であるX線小角散乱の測定に用いるセルの破損を防止する方法を開発したため、破損数が減り物品費が当初予定額よりも少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
大腸菌でのリコンビナントタンパク質の発現に加えて、小麦粉から各種グリアジンを調製する研究計画を追加する。この操作に必要なカラムの購入に、次年度使用額(A-B)を充てる予定である。
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