研究課題/領域番号 |
26660116
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
古屋 茂樹 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00222274)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 栄養学 / 食品 / タンパク質飢餓 / アミノ酸 / 腸管機能 |
研究実績の概要 |
本研究課題は, タンパク質栄養飢餓に適応し生存を維持する応答機構における肝臓セリン合成の必須性を,肝臓と腸管の機能連関を基軸に分子レベルで解明する事を目的としている。代表者は,肝実質細胞でセリン合成能を喪失した肝臓特異的系Phgdh KO(LKO)マウスを作製しており,それらに無タンパク質食を摂取させることで現れる表現型から肝臓と腸管間の機能連関の解明を目指している。平成26年度は,LKOマウス表現型について以下の予想外の結果を得た。 LKOマウスは肝実質細胞にCreタンパク質を発現させるアルブミン遺伝子プロモーターをTGマウスより導入することで作製した。まず肝臓ではPhgdh遺伝子の不活性化をゲノムでのnullアリルの存在によって確認した。また,Phgdh mRNAをQRT-PCR法により定量することで,同腹正常個体の40%レベルに低下していることを確認した。これはPhgdhが肝臓非実質細胞に発現している可能性を示す。 しかしながら,通常の給餌条件でLKO肝臓のアミノ酸分析を行うと遊離セリン含量は正常対照とほぼ同レベルであり,量的低下を検出できなかった。また血清遊離アミノ酸濃度を測定すると,セリンは正常対照と同レベルであるが,グリシンが40%程度にまで低下しており,一方でグルタミン酸が増加していた。このプロファイルより,LKOが肝臓以外の末梢臓器でグリシンからの変換系によりセリンを代償的に合成し,肝臓に供給している可能性が推定された。そのためLKO主要末梢臓器の遊離アミノ酸分析を行い,腎臓と筋肉において正常対象よりセリン含量が増加しており,肝臓への供給源となっていることが明らかとなった。また,LKOマウスに無タンパク質を短期間給餌(48時間)するとPhgdh mRNAは増加するが,外見上下痢等の腸管機能異常所見は生じず,より長い期間の給餌が必要であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年度にLKOマウス肝臓でのセリン含量が,当初の予想と異なりほぼ正常対照と同レベルに維持されていることが明らかとなった。この現象は今後の研究と得られた結果の解釈に大きく影響するため,その分子的背景の解明に大部分の時間を費やすこととなった。結果的には,上記の腎臓と筋肉における代償的合成・供給の可能性を見いだした。この結果は,肝実質細胞でのPhgdh不活性化に対し,血中のグリシンを正常対照の半分以下に低下させつつも肝臓と血中のセリン濃度を維持しているとの予想外の生化学的適応機構の存在を示すものである。そのため,短時間(48時間)程度の無タンパク質食摂取では,表現型に直結するレベルのセリン欠乏状態に陥らなかったと考えられる。また,LKOマウスは四塩化炭素投与による肝臓への代謝ストレスにも正常対照とほぼ同程度の抵抗性を呈した。さらにLKOマウスは6ヶ月齢以降より正常対照に比べ有意に体重が増加し,肝臓や脂肪組織が肥大していた。このような予想外の表現型は,肝臓でのセリン含量レベルの維持と,他組織での代償的なグリシンからのセリン供給に起因すると考えられるが,詳細な機序は不明のままである。一方でLKOマウス及び正常対照マウス小腸でのPhgdh発現については,予定していた項目について予備的な解析のみで,一定の結果を得るに至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は昨年度の進捗状況を踏まえて,実施予定項目を当初計画より一部変更する予定である。上述のようにLKO肝臓ではPhgdhを実質細胞特異的に不活性化してもセリンが維持されているが,体重増加や肝肥大などの表現型が認められ,さらに関連プロジェクトでの研究より,LKOマウスは耐糖能に異常を呈すとの知見を得ている。そこで,LKOマウスでの肝実質細胞機能に関わる遺伝子の発現解析を行ない,その知見を踏まえて無タンパク質摂食実験に移行する予定である。その際には,肝臓の分化・特異的代謝機能発現のマスターレギュレーターである転写因子群に着目し,それらおよび標的遺伝子の発現変化等を中心に検討を行う。 また、長期無タンパク質食摂取によるLKOマウス肝臓及び小腸の機能形態変化とその分子的背景について,遊離アミノ酸と細胞タイプ特異マーカーの生化学・分子生物学的解析、および組織化学的手法を組み合わせて明らかにする。特に無タンパク質食摂取によって肝臓や腸管で炎症反応,さらに腸管幹細胞集団の量的変化が惹起されている可能性を遺伝子発現解析により検討する。 これらの項目の解析が進展した場合は,無タンパク食摂取後,肝臓と腸管において組織形態機能または物質レベルの質的変化が起こるタイミングを見いだし,その段階(もしくは直前)での小腸の網羅的遺伝子発現解析を行う。得られた発現データより,LKOマウスの無タンパク食摂取群に特徴的な変化を示す遺伝子群を抽出し,バイオインフォマティクス解析に文献情報も踏まえながら表現型への関与が推定される責任分子の候補の選抜を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に予定していた実験が,マウスの数が揃わず,当初規模で実施できなかった。そのため,その実験で使用するはずであった試薬が在庫分のみで足り,追加購入する必要が無くなったために次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は少額のため、次年度の実験に要する物品費に充当させる。
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