昨年度に動物実験委員会によって設定された人道的エンドポイント(体重20%減で実験中止)に従い、無タンパク質食摂取による肝臓特異的Phgdh KO(LKO)マウス肝臓と小腸の変化について、小腸幹細胞マーカー遺伝子発現および遊離アミノ酸組成に着目して解析を行った。体重が20%減少に達するまでの期間はLKOおよび対照群(Floxed、野生型)とも約14日間であった。その段階での体重は各遺伝子型とも無タンパク質食摂取は正常食(カゼイン20%)摂取に比べて経時的に有意に減少したが、各遺伝子型群間に有意差は認められなかった。摂食量も同傾向であり、全遺伝子型で無タンパク質食摂取により有意に低下していた。肝臓の形態にも影響は認められなかった。この条件で小腸幹細胞マーカーとして昨年度行ったLgr5に加えOlfm4とPhlda1の発現について検討したが、いずれも摂餌条件による発現変化は認められなかった。 両組織におけるセリンを中心とした遊離アミノ酸分析から、野生型およびFloxed肝臓においては、無タンパク質摂取は正常食に比べて有意なセリン増加を確認した。LKO肝臓では無タンパク質食摂取でセリンは変化していなかったが、グリシンは無タンパク質食によりほぼ半減していた。小腸では、肝臓同様にセリンについて摂餌条件による有意な変化は認められず、グリシンは、Floxed群のみ無タンパク質食摂取による有意な量的減少を見いだした。小腸Phgdh mRNAレベルも各遺伝子型で摂餌条件による有意な違いは認められなかった。 以上の結果を総合すると、肝臓実質細胞でPhgdhを欠損すると、タンパク質制限条件下でグリシンからSHMT1/2によるセリン合成を増やしてそのレベルを維持していると推定された。その際に小腸のセリンは維持され、予想とは異なり小腸幹細胞の増殖や分化に与える影響は少ないものと判断された。
|