東南アジア熱帯雨林に特有な現象として知られている一斉開花(不定期な間隔で起こる群集レベルでの同調した開花・結実)の有力な気象トリガーは、短期間の乾燥であることが報告されている。一方、長期観察より、一斉開花への参加頻度や樹木群集の中での開花順序が樹種によって異なりそうであることが見えてきたものの、その要因は解明されていない。乾燥した期間が続くと、表層土壌だけでなく徐々に深い土壌の乾燥が進むと予測されることから、樹種による根のはり方の違いが利用できる水の深度の違いをもたらし、乾燥への感受性の種間差を生じる結果、一斉開花への参加頻度や開花順序を決定しているという仮説を検証することを試みた。 まず、18年間におよぶ273個体・55種を含むフェノロジーデータから、樹種ごとの開花頻度を算出したところ、開花頻度は9.64回/10年から0.86回/10年と樹種によって大きく異なり、有意な種間差が認められた。また、高頻度開花樹種は低頻度開花樹種に比べて群集中での開花が1ヶ月以上早いことも確認できた。 初年度に実施した、ある一時点における深さ別土壌と対象個体の材コアを採集して水の酸素安定同位体比を分析するスナップショット的な方法では、うまく吸水深度が推定できなかったことから、2年目は時系列変化を利用した吸水深度推定(連続測定方法)を試みた。その結果、表層の土壌ほど水の酸素安定同位体比が大きく変動し、一部の樹種ではその変動に呼応するような大きな変動が見られたことから、浅い土壌からより水を吸水している樹種の存在が示唆された。吸水深度と一斉開花への参加頻度や開花順序との関係を検証するにはさらなるデータが必要である。
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