研究課題
小笠原の固有樹種テリハハマボウは、乾燥尾根部では樹高1m以下、湿性谷部では樹高16mにおよび、尾根部から谷部へと連続的に樹高を大きく変えて生育できる。土壌深さも、乾燥尾根部では10cm以下、湿性谷部では2m以上になっており、土壌深さによる乾燥勾配が生じている系である。従ってここでは、土壌乾燥勾配にそって、同一樹種内で、樹冠上部から十分に光の当たっている陽葉が得られ、同じ光条件の下、葉身の乾燥耐性を比較することが出来る、モデル樹木である。葉の面積あたりの乾重(Leaf mass per area: LMA)や葉身の厚さは、湿性谷部から乾燥尾根部にかけ、増加していた。葉の飽和水時の浸透ポテンシャルは、谷部から尾根部にかけ低下しており、乾燥勾配に反応した葉身を作っていた。しかし、葉身道管の水切れ耐性には、変化が無かった。また日中の葉の水ポテンシャルも一定であった(isohydryな植物)。一方、葉のキャパシタンスは谷部から尾根部にかけ増加していた。このことは、突然の光照射で生じるような急激な蒸散(脱水)増加に対して、乾燥尾根部の葉の水ポテンシャルの変化速度が遅くなる、すなわち時定数を変化させることを示す。一般に乾燥地では葉が厚くなり、それとともに葉身道管の水切れ耐性が増加することが知られているが、葉の厚さは必ずしも水切れ耐性に貢献するものではなく、むしろ乾燥に対してキャパシタンス(時定数)の変化に対応していることを示唆する。今後さらに、湿性谷部から乾燥尾根部にかけ、葉の日中の葉の水ポテンシャルを変化させるようなanisohydryな植物でも調査を行っていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
一般に乾燥地では葉が厚くなりことから、葉の厚さは乾燥耐性に依存していると、古くから考えられている。近年、乾燥地での多樹種間比較により、葉の厚さの増加は、葉身道管の水切れ(キャビテーション)耐性の増加をもたらすことから、葉厚とキャビテーション耐性に強い関連があることが示唆されてきた。しかし我々の結果より、葉厚はキャビテーション耐性とは直接関連せず、むしろキャパシタンス(急激な脱水時に水ポテンシャルの変化を遅らせる時定数)に関連したものであることがわかってきた。このように、世界的にも示唆されてきている仮説を、覆せるようなデータが順調にとれてきている。
1)今後さらに、湿性谷部から乾燥尾根部にかけ、葉の日中の葉の水ポテンシャルを変化させるようなanisohydryな植物でも調査を行っていく。2)葉身道管の水切れ(キャビテーション)耐性に直接関連すると考えられる、葉身道管の直径や壁孔構造の電子顕微鏡観察を進めていく。
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