これまでわが国において、研究事例がなかった森林土壌中の植物起源揮発性有機物(BVOC)が温室効果ガス(GHG)の生成や消費におよぼす影響を明らかにする第一段階として、気候、地形、土壌が同一で、植生が異なる森林において、土壌中におけるBVOCの動態観測をおこなった。本課題では、BVOCのうち、GHGの生成や消費に影響をおよぼす可能性が指摘されているモノテルペンに着目して、安比気象観測試験地(岩手県八幡平市)のブナ天然林および隣接するカラマツ人工林で観測をおこなったところ、両林分で大気よりも100~1000倍高い濃度のモノテルペンが見られ、ブナ林土壌よりもカラマツ林土壌でモノテルペン濃度が高かった。また両林分では、土壌空気を構成するモノテルペンの種類にも違いが見られ、ブナ林土壌ではβピネン、リモネンが主体であるのに対して、カラマツ林土壌ではαピネン、カレンが主要な構成成分だった。さらに、土壌中におけるモノテルペンは、年間で数百倍も濃度が変動する季節変化を示し、構成成分は大きくは変わらなかった。研究計画段階では、モノテルペンの主要な発生源として、落葉が考えられたが、落葉後に土壌中の濃度が上昇する傾向はなく、まだ新鮮落葉がほとんどない8月に最大濃度を示した。土壌中の濃度勾配から、モノテルペンの種類によっても発生源が異なり、植物根やカビ等微生物群も主要な発生源であることが示唆された。土壌中におけるモノテルペンの生成は、これまで観測してきた温室効果ガスと比較しても、複雑な生成メカニズムを持っていると考えられる。
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