樹幹が傾斜すると、傾いた姿勢を正しい方向へと戻すため、樹はあて材という特殊な組織を形成する。このとき、傾斜によって幹には重力方向が変化する刺激と曲げの応力が負荷する刺激の2つが作用している。あて材の形成がどちらの刺激にどのように応答しているかは従来より興味の対象である。この疑問を明らかにすることを目指し、本研究はあて材の新しい認識を目指している。 鉛直な苗木に鉛直方向に応力を負荷することで、重力方向が変化する刺激を加えることなく、応力だけの刺激を加えながら生育するという試料調整の方法を検討した。本年度は供試樹木として広葉樹ブナを加えた。これで針葉樹と広葉樹の両方を検討できた。また、応力として引っ張りを検討した。これにより圧縮と引っ張りの両方を検討できた。 針葉樹に圧縮の応力を加えると、放射径が短い仮道管が形成されるようになった。また細胞壁厚が増加した。針葉樹に引っ張りの応力を加えると、放射径が短い仮道管が形成されるようになった。また細胞壁厚が増加した。 広葉樹に圧縮の応力を加えると、直径に変化は現れなかったが、細胞壁厚は著しく減少し、二次壁の形成が抑制されているように見えた。リグニン量は減少する傾向にあった。広葉樹に引っ張りの応力を加えると、ゼラチン状層を有する典型的なG繊維が形成された。これは傾斜による引っ張りあて材と同類に思われた。
|