本研究では、多孔質な紙基板に高活性な金属ナノ触媒を印刷することにより、高効率な物質変換を実現する「プリンテッド・ペーパーリアクター」の開発に挑戦した。昨年度は、金属ナノ触媒を紙基板に印刷する手法を確立し、プリンテッド・ペーパーリアクターを調製することに成功した。また、水系・室温・大気下における4-ニトロフェノール(水質汚染物質)還元による4-アミノフェノール(医薬中間体)合成プロセスをモデル反応とし、ペーパーリアクターをフラスコ撹拌式のバッチ触媒システムに供したところ、高い触媒反応効率を確認できた。そこで本年度は、ペーパーリアクターを連続流通式のフロー触媒システムに適用した。当初は、紙基板上に微細流路を印刷してフローシステムに供する予定であったが、紙自体が持つ木材繊維ネットワーク由来の微細空間が優れたフロー反応場となることが示唆されたため、方針転換を行い、紙の内部に原料を連続流通するシステムを採用した。木材パルプやセルロースナノファイバーを用いて、ナノ構造、マイクロ構造、ナノ-マイクロハイブリッド構造を有する3種類のペーパーリアクターを調製し、フロー触媒システムに供したところ、紙の内部構造の違いで触媒反応効率も明確に異なる興味深い現象を発見した。特に、ナノ-マイクロハイブリッド構造が有効であり、ほぼ100%の物質変換を達成できた。また、本研究で開発したペーパーリアクターは、合成高分子やガラス繊維由来の競合フローリアクターと比べても高い触媒反応効率を実現した。以上の成果は、高効率かつ連続的な物質変換プロセスに向けた紙の有用性を示すものであり、紙の新たな機能・用途開拓への貢献が期待できる。これら本年度成果に関しては、国際学会で2件の発表、国内学会で2件の発表を行い、論文投稿も準備中である。
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