リグニンモデル化合物(GG)のイオン液体処理および高温アルカリ処理で単離したC6C3およびC6C2エノールエーテルのNMR測定における各シグナルの帰属をもとに、イオン液体処理した磨砕リグニン(MWL)中に生成したエノールエーテル部分構造の同定を行った。2次元NMRのクロスピークのシグナル位置から、イオン液体処理、高温アルカリ処理を行ったMWL中のエノールエーテル構造の確認が可能であることが分かった。熱機械分析で測定したMWLのガラス転移温度は約150℃であった。それに対して、5時間のUV照射(365 nm)を行ったイオン液体処理したMWLのガラス転移温度は、約165℃であった。2次元NMRのクロスピークの相対強度から算出したUV照射前の同MWLの異性化比は[Z]/[E]=約5/1であった。それに対して、UV照射後のMWLの異性化比も約5/1であり変化がなかった。低分子のリグニンモデル化合物は短時間の紫外線照射で異性化可能であり、立体構造の変化による熱特性の改変も可能であった。しかしMWLでは側鎖の異性化が非常に遅かった。低分子化合物の場合は種々の溶媒に可溶であり、異性化溶媒とし照射UV波長を吸収しない溶媒の選択が可能である。それに対して、MWL場合には溶解性の問題からそのような溶媒の選択が難かったことが、長時間のUV照射でも異性化が進行しなかった一因であると考えられる。また長時間のUV照射は、異性化以外の構造変化を引き起こす可能性があり、その点もカラス転移温度の変化に関係があると考えられる。UV照射によるMWL中のエノールエーテル構造を異性化するには、新規リグニン溶媒の検索などの異性化条件の改良が必要である。
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