昨年度までにマイクロサテライトDNAとミトコンドリアDNAマーカーを用いた高精度なヒラメ人工種苗のDNA親子鑑定システムを構築した。今年度はまずゲノムスキャンを通じて天然集団や種苗における自然選択あるいは人為選択の痕跡をトレースすることを試みるため、既報のマイクロサテライトDNAマーカーをさらに30座追加し、集団遺伝学的解析に用いることができるかどうかのスクリーニングを行った。その結果、初年度に用いた12座以外ではヌルアリルやラージアリルドロップアウトの存在が示唆され、正確な集団遺伝学的解析に使用するには困難な事が判明した。既に親子鑑定や集団遺伝学的解析に耐えうることが判明している12座を用いて天然集団5標本集団および人工種苗4標本集団についてLOSITANならびにBayScanによるアウトライアー探索を行った結果、いずれの座も中立性を棄却できなかった。天然集団は北海道から九州にいたるサンプリングによって入手したものだが、遺伝的分化の程度はFst=0.01と有意だが微弱な分化であった。 昨年度に引き続き、天然集団を親魚として生産されている別生産場の人工種苗について、その遺伝的多様性について親魚集団とともに評価したところ、遺伝的多様性は天然集団に比べて約10%低下しており、親魚集団180尾のうち3割が再生産に貢献していることが判明した。昨年度に調べた人工種苗の結果と比較して同等あるいはやや低い親魚の貢献度であるが、種苗の遺伝的多様性は同程度であった。以上の結果は天然魚を用いた放流用人工種苗の生産と天然集団に遺伝的影響を与えない放流方策の構築に貢献するものと考えられた。
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