研究課題/領域番号 |
26660158
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
菊池 潔 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (20292790)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 遺伝 / 回遊 / 浸透圧調節 / 進化 / 比較ゲノム |
研究実績の概要 |
海と河をめぐる回遊機構に関しては、これまでに多くの生理・生態学的な知見が集積しているが、回遊を可能ならしめたゲノム上の変異は同定されていない。トラフグ属魚類の多くは純海産魚であるが、その近縁種であるメフグは淡水適応に成功し、河に遡って産卵する。本研究では、遡河回遊を可能としたゲノム上の変異を同定するため、これまでの回遊研究とは異なった切り口、すなわち順遺伝学的手法を用いた。
まず、「淡水で生息可能なメフグ」と「淡水では死亡してしまうトラフグ」の種間交雑戻し交配家系を作出した。次に、得られた幼魚約200 個体を海水から淡水中に移して、その個体毎の生死を経時的に調べた(表現型値の取得)。その後、ゲノム全体をおおよそ覆うように、作製済みの連鎖地図から、約200 個のマイクロサテライト座とSNPを選び出し、解析家系における多型性を調べた。最終的には、表現型値とマーカー座の遺伝子型情報と併せて量的形質遺伝子座のインターバルマッピングに付し、淡水耐性遺伝子座を同定することに成功した。
遡河回遊性が進化するためには、親の淡水適応能と同時に子供の淡水適応能力も発達しなければならない。ところが、仔魚は親魚(あるいは幼魚)が持つの主要な浸透圧調節器官(鰓、腎臓など)を持たないので、親魚とは異なった淡水適応機構を獲得している可能性がある。そこで、孵化直後の仔魚についても上記と同様の解析をおこなった。その結果、幼魚と仔魚の淡水適応遺伝子座が異なることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
予定通り種間交雑家系より得た幼魚を利用した遺伝解析を行った。その結果、メフグ幼魚に淡水適応能力をもたらしている遺伝子座の同定に成功した。さらに孵化仔魚の遺伝解析もおこなった。幼魚と孵化仔魚の結果比較により、メフグの幼魚と稚魚とで、異なった遺伝子が淡水適応能に寄与していることが明らかとなった。つまり、親個体の淡水適応と孵化仔魚の淡水適応は別のプロセスを通じて可能となったと考えられる。この結果は予定以上の成果であった。また、次年度計画の基盤となる、メガネフグと海産フグの交雑魚作出も順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
トラフグ属魚類の中で遡河回遊性(河に遡って産卵する性質)を獲得した種は、メフグとメガネフグの2 種のみである。昨年度はメフグの淡水適応遺伝子座を解析したので、今年度はメガネフグの淡水適応遺伝子座を、昨年度と同様の遺伝学的手法で解析する。
別途、メフグとメガネフグの全ゲノム配列データを、次世代シーケンサーを用いて取得する。次に、得られたリードをトラフグリファレンス配列に貼り付ける。さらに、このリファレンス配列状に、これまでに得ている5種の海産トラフグ属魚類の全ゲノムデータを貼り付ける。淡水適応遺伝子座周辺に焦点を絞ってゲノム配列の多種間比較をおこなうことのより、淡水で生息可能なフグにのみ共通な塩基配列を見つけ出してして、淡水適応原因候補変異のリストアップをおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用学が生じた最大の要因は連鎖解析の方針変更にある。今年度は、まず①幼魚に対して通常の連鎖解析をおこない、次に、②詳細な連鎖解析をおこなう予定であった。②のステップに比較的高額で多量の消耗品が必要となるため、その費用を計上していた。しかし、幼魚に加えて孵化仔魚の解析を平行しておこなえば、興味深い結果が得られるだろうと思いついたため(実際、興味深い結果が得られた)、幼魚の詳細解析より孵化仔魚の通常解析を優先させた。この方針変更にともない、②のステップのために計上していた予算を使わなかった。次年度使用学が生じたもう一つの理由は、実験魚を購入できなかったことにある。比較的大量の遡河回遊フグ活魚の購入を予定していたが、12月から3月にかけて状態の良い魚が中国・東南アジアから輸入されず、購入予定が次年度春以降に延期された。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度おこなわなかった詳細解析を実行するため、昨年度計上していた額(遺伝子型判定に要する消耗品の購入)を次年度に使う予定である。遡河回遊フグ活魚の購入に関しては輸入依頼を継続中であり、6月までには購入できるのではないかと考えている。
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