東シナ海周辺の沿岸域において、トビエイ亜目のうち胚休眠を持たない可能性が高いことが判明した種を中心に定期的な採集を行った。特に、発生初期の胚の採集に重点を置き、フィールドで材料を採集することに多くの労力を費やした。その結果、過年度の材料とあわせて1~2か月間にまたがる発生初期の胚を採集することに成功し、全ての発育ステージの胎仔を得ることができた。胚の固定や切り出しについてはこれまでに当研究グループで確立してきた方法により行い、その発達段階を詳細に記載、記録してそれぞれステージ区分を行った。また、受精卵の蛍光観察を行い、細胞レベルで発生段階を詳細に調べた。一方、親魚の成熟状態については組織学的観察により明らかにし、妊娠の進行に伴う子宮壁の変化などについて調べた。特にアカエイについてはほぼ完全にデータセットをそろえることができ、雌雄の繁殖周期、交尾・受精・出産時期、妊娠期間等を明らかにすることができた。これまでトビエイ亜目の中でもアカエイについては胚休眠期がなく、交尾・受精後に極めて短い妊娠期間を経て胎仔が出産されると考えていたが、本研究の結果、受精後まもないステージ1の段階で胚の発生は突然休止して休眠卵となり、極めて短期(1~2か月)の胚の休眠期を経て発生が再開されるとごく短期間でステージ9まで発生が進み、出産に至るものと推定された。また本研究の結果から、妊娠期間が極めて短く、胚休眠期を持たないと考えられていたトビエイ亜目の他のエイ類についても同様にごく短期間の胚休眠期が存在する可能性が高まった。
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