①カタクチイワシ親と子によるSI実験の結果、1.子は産卵直前に摂取した餌の栄養素を成長(筋肉)と卵生産の両者に利用していること、2.雌親は子に比べて大型卵を多産していること、3.雌親は産卵直前に摂取した栄養素と一時的に体内へ蓄積した栄養素、両者を使って卵生産を継続していることなどが明らかとなった。すなわち、このような雌魚の繁殖投資戦略の違いが卵の質や量の相違に反映するとともに、親は餌環境が厳しい条件でも一時的に体内に蓄積した栄養素を利用することにより、産卵をできる限り維持・継続させられる能力を有していることが示唆された。以上の結果を踏まえると、雌親魚の筋肉と卵巣のSIは過去と現在の生息環境を示すマーカーとして利用できることが示された。②同じ水温帯において、千葉で採取された沖合群の脊椎骨数は大村湾・燧灘の沿岸群よりも少ないことが判明し、同水温帯の発生群において、沖合群と沿岸群の識別が脊椎骨数でも可能であることが示唆された。③天然雌親魚の筋肉と卵巣のSI分析の結果、a. 熊野灘では冬季に東日本から南下回遊した群が来遊し、6月頃まで産卵を継続していること、b.紀伊水道では5月に外海で発生した群が、6月以降は内海(大阪湾を主体)で発生した群がそれぞれ産卵していること(産卵群が入れ替わる)、c.大阪湾と燧灘群は春~夏の産卵期において交流がないこと、d.豊後水道~日向灘では小規模の交流は認められるものの、産卵期に大規模な回遊は認められないこと、などが示唆された。これらの情報により、春~夏における雌親魚の筋肉と卵巣のSIは、当該海域におけるカタクチイワシ天然魚の回遊・分布および個体群構造を明らかにするための指標として有効であることが示された。これら成果の一部を学会にて報告するとともに、学術論文としての投稿準備を進めている。
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