本研究ではカタクチイワシの分布・移動および個体群構造を把握するため、筋肉および卵巣の炭素・窒素安定同位体比(SI)に及ぼす餌のSI値の影響を飼育実験により調べた。未成魚の筋肉SIの変化率は発育・成長に伴って緩やかになった。成魚の筋肉と卵巣のSI変化率には相違が認められ、成魚の卵巣SIは急速に変化し、20日以内に餌のSIに近似した値で収束した。これらより、成魚の筋肉は過去の、卵巣は直近の生息環境を示す指標として有効であることが明らかになった。瀬戸内海周辺海域において採取された天然雌親魚の筋肉と卵巣のSIの予備観察から、当該海域には複数の地域個体群が存在している可能性が示唆された。
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