研究課題/領域番号 |
26660166
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
井上 晶 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 准教授 (70396307)
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研究分担者 |
尾島 孝男 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (30160865)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 褐藻類 / ミオシン / アクチン / ATPase / プロトプラスト |
研究実績の概要 |
大型褐藻類マコンブのプロトプラスト細胞由来cDNAライブラリーから既知のミオシンモータードメインと類似したタンパク質(SjMLP)をコードする遺伝子を見出した。SjMLPはATP分解やアクチン結合に関わると考えられる領域をもっていたが、レバーアーム、軽鎖結合、尾部領域はもっておらず単量体と考えられた。大腸菌により組換えSjMLPを発現、精製し、Mg-ATPase活性、アクチン結合能について調べた結果、SjMLP1分子あたり最大で約0.7個のATPを分解すること、F-アクチンとATPの存在によらず結合することが分かった。また、顕微鏡下で蛍光ラベルしたF-アクチンの挙動を観察したところ、SjMLPとATPの存在下ではF-アクチンが束化する様子がみられた。 プロトプラスト処理前の細胞におけるSjMLPの発現について調べるためにマコンブ胞子体葉状部からmRNAを抽出を試みたが、常法では高品質なものが得られなかった。そのため、我々が先に見出した最高クラスの分解活性をもつHULKアルギン酸分解酵素を用いたRNA抽出法を確立した。本法で得られたRNAは次世代シーケンサーに供することできる品質であったことからトランスクリプトーム解析を行った。その結果、SjMLPとN末端612アミノ酸は完全に一致するもののC末端部に400アミノ酸以上の伸長した配列をもつタンパク質(SjMLP-Long)の存在が示唆された。次いで、プロトプラスト細胞由来および胞子体由来のcDNAを鋳型としてSjMLPとSjMLP-Longの各遺伝子を増幅した結果、プロトプラスト細胞からは両者が増幅されたが、プロトプラスト処理前にはSjMLP-Longの遺伝子のみが増幅された。 以上の結果から、SjMLPはATP依存的にアクチン束化を促進するタンパク質であり、浸透圧ストレスなどに応じて発現が制御されていると推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
褐藻類マコンブに見出されたユニークなタンパク質SjMLPの生化学的性質の評価については概ね順調に研究は進展している。 一方、SjMLPの機能領域を解析するために、大腸菌発現系により変異体を作成して解析を試みたが、いくつかの変異体では不溶化したため組換えタンパク質を得ることができなかった。そのため、この点についてはやや遅れているが、発現ホストとなる細胞を昆虫細胞に変更し、現在発現系の構築を進めている。 また、研究の進展に伴って、当初予期していない結果も得られた。すなわち、本タンパク質は恒常的に発現しているものと推定していたが、この仮説に反してプロトプラスト処理前の細胞中にはSjMLPをコードする遺伝子を検出することができなかった。しかしながら、当初予定していなかったトランスクリプトーム解析を行うことで、SjMLPの一部と同一の配列をもつSjMLP-Longをコードする遺伝子が見出され、この疑問については解決となる糸口を捉えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は当初の研究計画に従って、SjMLPの各種切断変異体を用いて機能を解析し天然型と比較することで機能領域の解明を生化学的手法により進める予定である。昨年度に作成したいくつかの変異体は大腸菌発現系では可溶性タンパク質として得ることができなかったため、組換えバキュロウィルスを作成し昆虫細胞を利用した発現系の構築を進める。 また、SjMLPによるアクチン束化を解除する因子がタンパク質である可能性が考えられるため、マコンブ胞子体葉状部から非変性条件下でタンパク質を効率的に抽出する方法も検討し、得られたタンパク質とSjMLPに対する結合能を調べ、結合タンパク質が得られた場合には配列解析を行う予定である。 プロトプラスト処理をしていない細胞中にはSjMLPの一部と一致する配列をもつアイソフォームSjMLP-Longの存在が示唆されたことから、この翻訳領域全体をコードする遺伝子のクローニング、発現系の構築、および機能解析を進める。 以上の結果を総括することにより、褐藻類マコンブが浸透圧ストレスに応じてアクチンを束化するユニークなメカニズムを分子レベルで明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年2月に発注していた試薬について納期が遅延し3月に納品、4月の支払いとなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
必要な試薬類については3月に納品されており、酵素活性測定、遺伝子抽出に使用する。
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