研究課題/領域番号 |
26660176
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
八谷 如美 東京医科大学, 医学部, 教授 (30408075)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | レーザーマイクロダイセクション |
研究実績の概要 |
真核生物は、原核生物が何らかの過程を経て、核膜など、発達した膜構造を獲得することにより進化したものと考えられているが、原核生物と真核生物をつなぐような生物はこれまでに見つかっていない。島孤フロント上の海底火山である水曜海山は熱水活動が活発であり、こうした未確認の新規生物が存在しうる可能性が高いことから、我々は、当該領域より無作為に採取した多毛類環形動物であるウロコムシの微細構造を透過型電子顕微鏡連続切片により観察していたところ、体表付近および筋層直下に、核膜構造が不完全であり、かつ、ミトコンドリア様の膜構造を持つ未同定の微生物を見いだした。そこで、本微生物の系統進化学上の存在意義を精査するため、ウロコムシ体表からの当該微生物のみの単離、およびメタゲノムおよび脂質解析を行うべく本研究を計画した。本研究は1μm径以下の極微小構造体を核出可能な改良型レーザーマイクロダイセクション(Advanced-LMD; ALMD)装置を開発・改良をし、これを用いて、上述微生物を解析するものである。今年度は、本研究課題当初からの問題点であったサンプル回収装置の改善に主眼を置き、回収デバイスを開発したことで、サンプルロスを大幅に減少させることに成功した。また、本装置およびLC-MS/MSを用いて、ドミノ肝移植後わずか1年で、既に直径数μm程度の極微小アミロイド沈着がおこり、これをシードとしてドナー由来のアミロイドーシスが進行していくことを初めて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は1μm径以下の極微小構造体を、組織、細胞等から高精度に切削し、高効率に回収する改良型レーザーマイクロダイセクション(Advanced-LMD; ALMD)装置の開発・改良を行うとともに、これを用いて、小笠原沖水曜海山深海底から採取したウロコムシに付着する種未同定の微生物を解析するものである。具体的には、(1) 透過型電子顕微鏡による当該微生物の微細構造観察、(2)メタゲノム解析、(3) ならびに脂質抽出による構成成分解析、である。昨年度までに(1)を終え、今年度においては、限られた試料である水曜海山深海底標本を正確かつ効率よく摘出するため、本研究課題当初からの問題点であったサンプル回収装置の改善に注力し、研究を行った。あわせて、本システムを用いて、TTR型アミロイドーシス肝のドミノ移植による極早期生検サンプル解析を行い、有効性を証明した。結果は以下のとおりである。まず、サンプル回収に用いるガラスキャピラリの脆弱性を改善するため、ガラス外壁をシリコーンチューブで覆った二重構造の回収デバイスを開発した。これにより、ガラス破損によるサンプルロスを大幅に減少させた。次に、信州大学神経内科矢崎らが、ドミノ肝移植後1年時における十二指腸生検病理標品~500切片中、3切片において、直径数μm程度の極微小アミロイド沈着を光学顕微鏡及び偏光顕微鏡で確認したことから、本沈着アミロイドをALMDにて摘出し、LC-MS/MSによる構成成分を同定し、これらがドナー肝由来であることを証明した。従来、ドミノ移植では、ドナー由来のアミロイドの沈着は数年から数十年の単位で起こると見込まれてきたものの、ALMDを用いた本研究成果により、移植後わずか1年で初期アミロイドの沈着は生じており、これがシードとなって、レシピエントにアミロイドーシスを発症させるメカニズムを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
限られた試料である水曜海山深海底標品中の当該微生物を、ロスなく正確かつ高純度に摘出することは、新規の微生物の系統進化学的解析をおこなう本研究においては最も重要なことである。従来のLMD装置では、シングルセル単離によるゲノム解析を主眼においてなされていたために、数μm径あるいはそれ以下のサイズの極微小領域の構造体の切削・摘出は困難であり、深海ウロコムシに寄生する微生物体内のオルガネラ等を解析するにあたっては、目的が達せられなかったが、ALMDの開発により実現可能となった。また、これまでの開発成果から、目的新規微生物の単離のみならず、その体表一部等の切削・摘出もようやく可能になったことから、今後の研究では、摘出標品を用いてメタゲノム解析を中心に、あわせて脂質解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末において、実験に使用する抗体及び試薬等の入手が間に合わなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度研究において遂行するべく計画を見直し、進捗に従って、随時発注する予定である。
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