研究期間を通して、オイル産生藻類の交配育種の実現を目標に有性生殖機構の解明などに取り組んできた。材料は重油相当の炭化水素を生産する緑藻のBotryococcus braunii(ボトリオコッカス)である。日本各地の湖沼とインドネシアのため池から野生株を単離し、前年度に開発したダイレクトPCR法を使って18Sリボソーム遺伝子を増幅し、品種を推定した。ボトリオコッカスは生産する炭化水素の種類をもとに4品種に分類されており、この分類はリボソーム遺伝子の系統解析からも支持されており、種内に大きな遺伝的変異があることが知られている。異なる品種は同じ湖沼に同所的に生育しているが、遺伝的な分化が見られることから、品種間での遺伝的な交配は起こりにくいと考えられた。そのため、交配実験をする際には同じ品種に属する株を材料とする必要があると考える。そこで、リボソーム遺伝子の系統解析をもとに新たに単離した野生株の品種推定を行った。その結果をもとに、エネルギー価の高い炭化水素を作るB品種を選定し、増殖速度と温度耐性の面から性能評価を行った。これは、株ごとに異なる有用形質(増殖性、オイル含量、ストレス耐性など)を持つことが予測されるためで、将来的には異なる有用形質を持った株を交配することで複数の有用形質をあわせもった優良株の育種や、有用形質を制御する遺伝子座を調べる分子遺伝学的研究の材料となることが期待されるためである。 また、平成28年度は、ボトリオコッカスに特異的と考えられる炭化水素の生合成遺伝子の一つに着目し、これを分子生物学的に利用して未知の野生株を検出するためのリアルタイムPCR法の開発を行った。この方法は、湖沼水から抽出した環境DNAからボトリオコッカス野生株の存在量を推定したり、未解明の生活史や分布生態の研究に応用可能であり、有性生殖の仕組みを理解する一助となることが期待される。
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