研究課題/領域番号 |
26660186
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 求 九州大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (40507852)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 和紙 / 山村 / コウゾの多機能性 / 地域協働 / トレーサビリティ / 地域社会の再構築 / 多面的機能 / 耕作放棄 |
研究実績の概要 |
近年、コウゾやミツマタ等の国産和紙原料が激減し、文化財修復用等の和紙の原料確保が問題となる一方で、栽培農家の動態研究は進んでいない。和紙原料の主要産地である高知県いの町や無形文化遺産に登録された本美濃紙などの原料を供給してきた茨城県大子町や熊本県、福岡県などでは獣害や作業者不足が生じつつある。 本年度は、原料栽培者・紙漉・原料問屋・販売業者などとの情報の共有と、高知県・茨城県・熊本県・福岡県・岐阜県などの原料産地・和紙産地での新たな栽培方法試行を行った。さらに原料栽培と加工、和紙そのものにまつわる様々な「物語」について、国内外の舞台芸術家とともに「和紙+舞台芸術」としたパフォーマンスを高知・高松・横浜・博多などで8回実施した。現地での作業には、高知・岐阜・新潟などの紙漉き職人や研究者が参加しており、連携の輪がさらに広がった。これらの協働について、「協治の描く新たな社会像」(東京大学出版会『UP』2015年7月号pp.11-18.)として公表したほか、11月には良品計画と協働で和紙に関するワークショップをキャナルシティ博多のMUJI店舗で開催した。 また和紙のトレーサビリティ確立のために、原料生産者・加工者・流通者・紙漉・販売者などの詳細がわかる「柳野和紙」を作成し、QRコードを添付して情報をFacebookで閲覧できるようにした。 これまでの成果については、「和紙の力」ブックレット①土佐和紙のこれからを考える―土佐コウゾの力―を配布したほか、「柳野和紙」Facebookの作成、奥田裕規編著『田舎暮らしと豊かさ』の第5章「田舎暮らしで伝統を受け継ぐ」を分担執筆し、和紙を巡る様々な状況とこれからの可能性について報告した。また、全国手漉き和紙連合会および美濃手すき和紙協同組合において、和紙原料の現状と新たな栽培方法の可能性についての講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2014年11月に本美濃紙などが無形文化遺産に登録され、特定の和紙や原料産地での需要と供給バランスの問題が深刻化した。そのため今年度は主産地である高知県と茨城県、岐阜県において、重点的に現地調査を進めた。さらに本年度から、高知県いの町でコウゾとコンニャクや茶、ミツマタ、コムギなどと組み合わせた栽培試験地2反を借り増したほか、茨城県大子町では約4反を栽培農家との協働で管理することになった。 これにより栽培地の特性と多様な機能の組み合わせ可能性を探っており、来年度は試験地での生育状況を踏まえた管理方法の構築が進む予定である。 また当初想定していた以上に多地域の和紙関係者がこれらの協働に参加し、これまで原料生産の現場を知らなかった和紙生産者などの栽培者への理解が深まっている。それによって、申請時には予測していなかった、これまでの流通構造を転換するための動きが和紙関係者間に生じた。さらに舞台芸術など、論文や学会発表以外の場での問題提起と共有についても想定以上の広がりとなっている。 東京オリンピックに向けた和紙の開発についても、和紙そのものが持つ「物語」を伝える手段としてのトレーサビリティの確立、QRコードやFacebookの活用、異なる表現者・媒体とのリンクなどを進め、手漉き和紙関係者を中心に情報や技術などの共有が広がっている。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度より高知大学地域協働学部に異動することとなり、高知県内での和紙原料とその栽培地の多面的機能の活用については、さらに頻繁かつ密接・広範に進めていくための土台を形成することができる。そのため、最終年度である今年度については、これまでの成果と栽培試験地を活かし、多様な関係者との協働による多面的機能の活用方策を高知県内各地で進めていく。 さらに、原発事故にともなうイノシシの急増と狩猟者の減少により獣害が深刻化しつつある茨城県大子町の和紙原料産地や、シカの増加や木質バイオマスなどの活発化にともなう再造林放棄が生じている九州地域、原料の減少にともない、和紙産地内での原料栽培を試みつつある岐阜県においても、高知県内で蓄積しつつある和紙原料栽培の多面的機能を援用した問題解決を進めることとする。 また、研究者が主体となった問題の解決方策の推進のみでなく、新規移住者および和紙関係者、ボランティアなどとの協働により、和紙原料栽培地の多面的機能の具体的な活用を進めることで、研究の成果を多様な地域と主体に広げていく予定である。
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