本研究では、和紙原料栽培という生業に着目し、山村などの気候風土に適した作物が有する多面的機能を活用した資源管理と人的つながりの確立による地域社会の再構築策を検討している。対象事例としては、高知県を中心に、茨城県・岐阜県・福岡県・佐賀県・熊本県・鹿児島県・新潟県・兵庫県・岡山県・島根県などでの現地調査を進めた。まず明らかに下のは、コウゾやミツマタなどの原料生産地の立地・技術・流通上の問題点である。その結果、全国的に深刻化する獣害回避策の緊急的実施が必要であるほか、問屋の衰退で失われた原料栽培・加工・販売・利用者間で共有すべき情報の整理と提供方法の確立、分業で情報と担い手が限定化した和紙生産への協働の組み込みが重要であることがわかった。そしてその問題解決に活用しうる和紙原料植物の多面的な機能としての収入源・蜜源・庇陰・獣害回避などの機能を抽出した。 多面的な機能の具体的な活用方法として、獣害に遭いやすく日照環境に恵まれない傾斜地でも栽培可能なミツマタなどの和紙原料植物による人工林の樹種転換方法と獣害対策の可能性を検討しているほか、栽培農家の減少と高齢化への対策として、栽培共同性の再構築も進めている。現在は、高知県で確立しつつある構築策を他地域でも援用して行きつつある。 研究成果は、林業経済学会誌など学会関連の論文、書籍、冊子のみでなく、「和紙だより」「越後の生紙」など和紙関連の業界紙、現代農業などの専門誌などに公表している。このほか、全国手漉き和紙連合会や美濃和紙研修会、高知県各地、埼玉県鳩山町、茨城県大子町などでの講演や管理支援を進めている。
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