研究課題
申請者が新規提案している「Air irrigation効果(夜間の結露などに伴う葉の濡れが植物にポジティブな影響をもたらす効果)」について,2つの手法を用いて,植物個体および植物群落レベルにスケーリングアップすることを試みた.先ず,蒸散流センサを組み込んだ大型の植物個体チャンバーシステムを新たに構築した.このシステムは,濡れた植物の蒸散速度,光合成速度,葉コンダクタンス,および濡れの蒸発速度を評価することが可能である.人為的に葉を濡らした植物と濡らしていない通常の植物のガス交換特性を,当該システムを用いて計測した.その結果,濡れによって葉コンダクタンスが増加することによって,光合成速度も増加した.同時に,濡れによって蒸散速度が減少するため,結果として水利用効率(=光合成速度/蒸散速度)が著しく増加(164%)することが示された.次に,葉の濡れによる蒸散抑制効果を考慮した植物群落レベルの蒸散速度推定モデルを構築した.このモデルでは,葉の熱収支に基づく環境側から植物群落に対する蒸散要求度ED,実際の葉が持つ気孔およびクチクラ層による蒸散調節機能を表す係数Imp,および葉が濡れた際の蒸散抑制係数(濡れがある場合とない場合の葉面飽差の比)との積によって,群落レベルの蒸散速度の動態の推定が可能である.当該モデルを用いて乾燥地作物畑のデータを解析した結果,葉の濡れは10:30頃まで発生し,その期間の蒸散速度が約24%抑制されることが示唆された.さらにSPACモデルを援用することで,日中の木部圧ポテンシャルの減少が,葉の濡れによって抑制される可能性も示された.以上,当該年度の研究によって,植物個体および群落レベルにおけるAir irrigation効果を定量的に評価することが出来た.これらの成果は,砂漠化進行地域における節水型の灌漑計画の確立に寄与するものと期待される.
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
Biologia
巻: 70 ページ: 1485-1489
DOI: 10.1515/biology-2014-0175