研究課題/領域番号 |
26660208
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
祝前 博明 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00109042)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 一塩基多型 / 関連重み行列 / 遺伝子ネットワーク / 分子育種価 / ゲノミック予測 / ゲノミック選抜 / 飼料利用効率 / 和牛 |
研究実績の概要 |
肉用牛の飼料利用性に関する形質を対象として、関与する遺伝子ネットワークの情報を抽出し、個体の遺伝的能力(ここでは、分子育種価と呼ぶ)の予測に用いる一塩基多型(SNP)の数を絞り込むことによって分子育種価予測の正確度の向上とその安定性を高めることができれば、その意義は大きい。そこで、まず、黒毛和種直接検定牛の飼料利用性の記録を対象にゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施し、得られたデータに対して関連重み行列アプローチを適用して、飼料利用性に関わる遺伝子ネットワークの推定を試みた。 飼料摂取量、余剰飼料摂取量、増体に関する7形質について、平成14~23年度の記録を備えた735頭を対象に、38,649箇所のSNP情報を用いてGWASを行った。GWASにおいて3形質以上で有意であったSNPを抽出し、その後の解析に用いた。効果の標準化した推定値に基づく有意なSNP間の相関から遺伝子間相互作用を推定して、SNP近傍の遺伝子に関するネットワークを構築した。 抽出されたSNPの5 kb以内には637の遺伝子が存在し、これらには視床下部で発現する21の遺伝子が含まれていた。637遺伝子間の相互作用の数は約2万であった。転写因子と視床下部で発現する遺伝子との間の42の相互作用により構成されたサブネットワークには、マウスにおいてレプチンとは独立に飼料摂取を制御することが明らかとなっているRCAN2を含む32遺伝子が認められた。以上より、得られたネットワーク情報には、飼料利用性形質の遺伝的構造に関する重要な情報が含まれていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度における研究の主目的は、和牛の飼料利用性に関わる遺伝子ネットワークの推定を実現することであった。具体的に、平成26年度には、①50K SNPチップの情報を用いてゲノムワイド関連解析を行い、黒毛和種直接検定法における多形質(飼料利用性および発育性に関する形質)に対する各SNPの効果と有意確率を算出する、② 次に、有意性の認められたSNPとウシ遺伝子との位置関係の情報によってSNP数を絞り込み、対象多形質と絞り込んだSNPとの関連重み行列を作成する、③この関連重み行列から、遺伝子ネットワークを推定し、関連SNPを再抽出する、ことを計画した。 したがって、上述の研究実績に鑑み、当初に予定していた規模と質のデータを用いて、概ね目的を達成できたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度には、26年度に抽出・選択したSNPを説明変数とし、ベイズ法による分子育種価予測式の導出を行って、予測の正確度およびその安定性について、利用できるすべてのSNPを説明変数とした場合と比較しつつ評価する。 なお、本年度には、平成26年度検定牛:約250頭の関係データも加え、遺伝子ネットワークの推定から分子育種価予測にいたるまでの全解析を、最終的に約1,000頭規模のデータで実現したいと考えている。そのため、申請時に予定した「ウシQTL領域情報に基づくSNPの抽出と利用」計画の部分については、時間的余裕がある場合にのみ実施することとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究計画では、直接検定牛のうちの100頭分については、動物遺伝研究所への委託によってIllumina 50K SNPチップによるタイピングを実施する予定であった。しかし、(公社)全国和牛登録協会と動物遺伝研究所の協力と配慮が得られた結果、無償での関係SNPデータの利用が実現したため、結果的に約100万円分の経費の余裕が生まれ、27年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
当該分については、膨大な量の関連情報の整理・編集・数値計算のための補助者の雇用などに充てたいと考えている。
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