研究実績の概要 |
肉用牛生産において、飼料の利用性は重要な経済形質である。そこで、飼料の利用性に関わる複数の形質を対象として遺伝子ネットワークの情報を抽出し、個体の遺伝的能力(ここでは、分子育種価と呼ぶ)の予測に用いる一塩基多型(SNP)数を絞り込むことにより、分子育種価予測の正確度の向上とその安定性を実現できれば、極めて意義がある。 最終年度の平成27年度には、分析データ数を可能な限り増やし、平成14年度から25年度における直接検定牛974頭の記録を用いて、37,732箇所のSNPのデータを利用したゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施した。次いで、得られた分析結果に対して関連重み行列(AWM)のアプローチを適用し、飼料利用性に関わる遺伝子ネットワークの再推定を行うとともに、AWMに含まれる遺伝子についての機能解析を実施した。また、その結果に基づいてSNPセットを作成し、ギブスサンプリング法により、各SNPセットによって説明される遺伝分散の推定を行った。 GWASにおいて予め設定した有意性判定基準を満たしたSNPの近傍5 kb以内に、644の遺伝子が存在した。遺伝子の機能情報に基づいて全SNPを二つのセットに分割して推定された遺伝分散の値の和は、分割せずに推定された遺伝分散の値よりも大きくなり、その傾向はAWMに用いたSNPセットの場合にとくに顕著であった。対象形質と有意に関連するジーン・オントロジー・タームに属するSNPセットを用いた場合には、セットに含まれるSNP数の割合よりも高い割合の遺伝分散が推定された。 本研究で推定された遺伝子ネットワークにより、GWASのみからでは得られない黒毛和種の飼料利用性の遺伝的構造に関する情報が得られたが、得られた情報がゲノミック選抜にどのように有効利用できるかについては、さらなる検討を要する。
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