研究課題/領域番号 |
26660212
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
西堀 正英 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (80237718)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 分子種判別 / Multiplex PCR / ミトコンドリアDNA / DNA鑑定 / 簡便法 / 迅速・正確 / 動物 / 特異的PCR primer |
研究実績の概要 |
国際空港や港などで種判別を用いた検疫で野生動物の密輸密猟を未然に防ぐことが期待されている。現行ではその簡便,迅速,正確性の点で問題が残っている。種判別法のうち分子種判別法は検疫だけでなく,肉種偽装捜査にも適用されている。簡便,迅速,正確な種判別法の確立は社会貢献度も大きく,食の品質の観点からも新たな種判別法の確立は急務である。本研究は,全ゲノム情報から分子種判別に最適なDNA領域を確定し,PCR⇒電気泳動⇒染色⇒検出の一連の作業を簡略化,迅速かつ誤判定のない正確な分子種判別法を開発することを目的とした。 (1)ミトゲノム情報が報告されている動物の全ミトゲノム配列をアライメントし,特異性と共通性領域を明らかにした。さらにターキン,サイガ,シフゾウ等の全ミトゲノム配列を決定し,その特異性と共通性領域を明らかにすることを試みた。(2)特異性と共通性領域情報からPCR primerを動物種毎に合成し,DNAクロマトグラフィであるPAS(printed-array-strip)を作製した。PCR産物の末端に付けたDNAタグと相補的なDNAタグをプリントした。(1)と(2)で作製したPCR primerでMultiplex-PCRを行い,電気泳動とPAS検出を実施した。本研究ではニワトリ,ウシ,ブタ(イノシシ),ウマ,ヒツジ,ヤギ,イヌ、ネコ、ウサギ、シカ、クマ、マウス、ラット、ヒトについてミトゲノム情報をもとにそれぞれの種特異的PCR primerを作成し、Multiplex PCR法と3%アガロースゲル電気泳動法と同時にPAS検出法を行った。本研究では種特異的PCR産物と共通PCR産物を得ることができ,同時にPAS検出法においても同様の結果が得られた。本法は、検出方法が簡易でDNA増幅装置さえあれば検出を行うことができ、様々な現場での検出において非常に有効な方法である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全ゲノム情報から分子種判別に最適なDNA領域を確定し,PCR⇒電気泳動⇒染色⇒検出の一連の作業を簡略化,迅速かつ誤判定のない正確な分子種判別法は,すでに主要な家畜およびペット,日本在来野生動物では対象とした全ての種で正確に種判別することができた。加えて,市販の食品に含まれる肉種についても強い加熱処理をしていない食品では肉種判別を行うことはできた。しかしながら,加熱処理を施していくとDNAはまずその長さが長い核DNAから断片化が起こり,続いてミトゲノムDNAとなる。ただしミトゲノムは核DNAに比べて1つ細胞内にその数が多いことから核DNAに比して解析の成否は高い。このDNAの断片化の問題を解決するために,本研究で設計したPCR産物の大きさをすべて100塩基対以下に設定することで解析の成功度を高める必要があるものと考えられた。次年度,この課題に対して対応する実験を行う予定とした。 一方,絶滅危惧動物や貴重な野生動物のDNA収集について,海外に分布するものは名古屋議定書が批准したことで日本国内にDNAも持ち込んで解析するまでの手続きが非常に煩雑となり,このためにサイガなど日本国内に持ち込めなかったサンプルがあった。このことでその解析を平成27年度に延期した動物種があったことから,現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」と評価された。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は,本分子種判別法の正確性を担保するための研究を実施する。(1)PCR産物の大きさを100bp以下でPCRを行えるようなPCR primerの設計,(2)デジタルPCRを実施し,質および量的な裏付けの実施,(3)合挽ミンチのように1つの試料について複数の肉種が混合されたものを正確にその肉種と混合割合をPAS検出およびデジタルPCR法で検出できるか否かを検討する。つまり,あらかじめ特定の肉種試料を準備し,混合肉種数を変え,混合肉種割合を変えた複数の実験区を準備し,それらそれぞれについてDNAを抽出してPCRを行った後に, PASとデジタルPCRを用いた検出を実施する。 本年,(1)~(3)で開発した技術を,①市販されている肉,②市販されている肉種既知の合挽メンチ,③市販されている加工肉,④実際に科学捜査研究所において検査の必要性が出てきたサンプルおよび⑤加熱あるいは特殊な修飾がされているサンプルを対象として分子種判別法を実施する。とりわけ,PASを用いた簡便・迅速・正確性を確認しながらチェックする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額(B-A)で,1129円生じた理由は,消耗品購入の差額でどうしても1129円相当の消耗品を購入することができなかったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額(B-A)で,1129円生じた理由は,消耗品購入の差額でどうしても1129円相当の消耗品を購入することができなかったためであることから,本年度の消耗品費に加えて円滑かつ合目的に使用する計画である。
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