野生ニホンライチョウが摂取する食物には、毒性物質が多い。そのうち、シャクナゲに含まれる毒素を同定し、合成標品を用いた分解試験を実施した。シャクナゲ葉の粉末を基質とした嫌気性培地(PY)を作成し培地中に放出された成分をHPLC-MSおよび1H-NMRなどで同定したところ、これまでシャクナゲ由来毒物として報告のあるグラヤノトキシンは含まれておらず、一方、著量のロドデンドリンが検出された。ロドデンドリンのアグリコンであるロドデノールは、チロシナーゼの阻害活性のある化合物である。よこはま動物園で飼育されているスバールバルライチョウと、立山の野生ニホンライチョウより採取した盲腸糞をシャクナゲ添加培地に接種した。配糖体ロドデンドリンを分解し、ロドデノールを放出する反応は、いずれのライチョウからも高い効率で進行していたが、ロドデノール分解反応は、飼育下ライチョウの糞便細菌にはほとんど認められず、一方、野生ニホンライチョウの糞便細菌は、24時間以内に完全に分解することがわかった。 野生ニホンライチョウ糞から分離したLactobacillus plantarumやEscherichia coliを、ロドデノール標品を基質とするPY培地に接種したところ、L. plantarumの数株は、ロドデノールの分解能を持つことがわかったが、E.coliはほとんど分解できなかった。L. plantarumの分解活性は、野生ニホンライチョウの糞便細菌の示した高いロドデノール分解活性を必ずしも全て説明できるほど高くなかったため、26年度に実施した16S rRNAシーケンス網羅解析から示された優占種であるSynergistetes科など他種の細菌の関与をさらに検討する必要があると考えられた。
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