炭疽菌毒素受容体のうちTEM8を優位に発現するヒト組織由来樹立細胞HeLa細胞およびCMG2を優位に発現するHuvec細胞を用い、LeTX (PAとLFの複合体) の細胞侵入/細胞内移行に関わるHost細胞内因子の探索を行なった。LeTXの細胞質内侵入はLFの活性であるMAPキナーゼN末切断ならびにERKのリン酸化の減少を指標に判定した。 LeTX 処理によりMAPキナーゼN末端切断及びERKのリン酸化が顕著に抑制されている細胞からRNAを抽出し、種々の生体内シグナル因子のmRNA発現量を毒素処理群と非処理群で比較したところ、細胞骨格アクチンの重合や細胞膜/小胞の動態に強く関わっている低分子量GTP結合タンパク質およびその活性調節因子に変動が見られた。特に、これまでに炭疽菌毒素の細胞内侵入に関わっている可能性が示唆されている低分子量GTP結合タンパク質Rhoの活性調節因子の変動に加え、新たに複数のARF関連因子が変動しており、ARF群因子が新規の侵入関連因子の候補として考えられた。さらに、これまでに関与が報告されていない転写因子KLF2も炭疽菌毒素処理により変動していた。 次にこれまでの検討から関与が示唆されている因子に加え、これら発現量に変動があった因子に注目し、それら因子の炭疽菌毒素作用への影響を検討した。siRNA 導入によりあらかじめDynamine2の発現量を抑制した細胞を用いた検討では、LeTXの細胞質内侵入が生じMAPキナーゼN末切断が見られた。一方、KLF2の発現量を抑制した細胞を用いた検討では、正常細胞へのLeTX 処理に比べ、LeTX 処理後のMAPキナーゼN末端切断及びERKのリン酸化が減少する傾向が見られた。 これらから、従来関与するとされていたDynamine2に依存しない侵入経路の存在を示すとともに、ARF関連因子やKLF2が毒素の侵入に関与している可能性が明らかとなった。
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