研究課題
豚レンサ球菌(Streptococcus suis)は、豚やヒトに髄膜炎や心内膜炎を起こす人獣共通病原細菌である。本菌の莢膜は、宿主の食菌作用に抵抗する重要な病原因子と考えられているが、心内膜炎病変部からは無莢膜菌が多く分離される。そこで、同一病変部における有莢膜菌と無莢膜菌の共存と、それらが同一起源であるかを調べた。収集した心内膜炎病変部70検体のうち、59検体からS. suisが単独に分離された。1検体当たり24コロニーを拾い、莢膜の有無を調べたところ、31検体からは24コロニー全てが有莢膜菌であったが、26検体からは有莢膜菌と無莢膜菌の両者が、2検体からは無莢膜菌のみが分離できた。これにより、心内膜炎病変部に、有莢膜菌と無莢膜菌の両者が共存することが明らかとなった。両者が分離できた26検体由来菌から、検体ごとに有莢膜菌と無莢膜菌を1株ずつ合計26ペア選び比較した。MLST奇跡では、同一検体由来のペアは同一で、ST1が6ペア、ST28が20ペアであった。これらの全ゲノムドラフトシーケンスを決定したところ、莢膜の欠失はいずれも莢膜合成酵素遺伝子の偶発変異により起こっていた。SNPによって類縁性を解析したところ、同一検体由来のペアが最も類似していること、同一農場由来の菌株は異なる農場由来の株よりも類似していることが分かった。これらの成績より、有莢膜菌から無莢膜菌への突然変異は、農場ごとに別個に起こっていることが分かった。通常、実験室内の継代で無莢膜菌を見つけるのは難しいことから、特殊な環境、例えば豚の体内において、この変異が起こる可能性が考えられた。また、一部の同一農場由来の2ペアでは、ペア内よりも別なペアの有莢膜菌同士および無莢膜菌同士の方が高い類似性を示しており、これは特定の有莢膜菌と無莢膜菌のペアが農場に潜伏して、新たな感染を起こしている可能性を示唆するものである。
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