冬季繁殖で観察されたアトピー性皮膚炎(以下AD)モデルNC/Tndマウスの養育放棄・食殺行動は、わずかな室温の低下が原因であり、同じ環境下で飼育されたBALB/cマウスに比べ養育放棄・食殺行動を示す個体が有意に多いことがわかった。一方、養育放棄・食殺行動を行わなかったNC/Tndマウスは、BALB/cマウスに比べ積極的な養育行動を有意に行うことがわかった。 次に、母性行動研究のスタンダードとして使用されるC57BL/6マウス、および、NC/Tndマウスと同じ遺伝子異常による視覚障害(網膜変性症)を示すC3H/HeNマウスとの比較を行ったところ、室温19℃における養育放棄・食殺行動について、NC/Tndマウスは、C3H/HeNマウスに比べ有意に多く、C57BL/6マウスに比べ多い傾向があった。 BALB/cマウスとの比較に使用したNC/TndマウスのClinical Skin Severity Scores(以下CSSS)は、養育放棄・食殺行動の有無にかかわらず約1.5(皮膚炎症状はごく軽度で激しいかゆみはない)であった。さらにADの症状による影響を除外するため、上記のC57BL/6マウスおよびC3H/HeNマウスとの比較実験では、抗原暴露を軽減してADの症状を抑えたCSSS 0の個体を使用した。その結果、BALB/cマウスと比較したCSSS 1.5の個体の方が、CSSS 0の個体よりも、養育放棄・食殺行動の割合が高くなる傾向があることがわかった。 これらの結果から、NC/Tndマウスは、他の系統マウスよりも、ストレス(室温低下)で養育放棄・食殺行動が誘発されやすいことがわかった。さらに、抗原に暴露されることによって起こるアレルギー反応が、皮膚症状とは無関係に脳に何らかの変化を与え、その変化が養育放棄・食殺行動の誘発に何らかの影響を与えているのではないかと考えられた。
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