イヌの疾患の罹患率には明確な犬種差が存在しており、遺伝的な影響が強く寄与していると想定される。しかしながら、犬種間において遺伝的背景が異なるため、各疾患の発症と関連する遺伝子変異を同定するためのゲノム解析では、犬種毎に解析を行う必要があった。本研究では、犬種の遺伝的背景の問題を新たに開発する統計手法により処理することで、疾患の罹患率の犬種差を生み出している遺伝子変異の同定を行った。 所有する30犬種についての17万個の一塩基多型(SNP)情報に加えて、新たに10犬種130頭について血液のサンプリングを行った。抽出したゲノムDNAを用いてゲノム解析を実施し、17万個のSNP情報を新たに取得し計40犬種についてのSNPデータを作製した。また、動物の保険会社よりそれらの犬種の80疾患についての罹患率情報を入手した。これらの情報を組み合わせて、各疾患の罹患率の犬種差に関わる遺伝子変異をゲノム全体から明らかにするために、permutation法を組み合わせたゲノムワイド関連解析手法を構築した。 これまで、疾患の罹患率の犬種差とゲノムワイドに有意な関連を示すSNPを8個同定している。そのうち1個については他の形質との関連も報告されていることから、イヌの犬種を作製する過程において、その形質の育種選抜に付随してその疾患の罹患率の上昇が引き起こされたことを強く示唆する結果であった。今後は、同定された疾患罹患率の犬種差に関わる遺伝子変異が、実際に特定の犬種においてどのように疾患のリスクと関係しているかについて解析を進めていく。また、本解析手法の有用性が示唆されたため、SNP情報の犬種数および疾患罹患率のデータを追加する予定である。
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