研究課題
乳用牛が罹患する疾病の中でも最も発病頻度の高い乳房炎は、乳腺房内に病原微生物が感染することで引き起こされる。一般的な乳房炎の治療法として、抗生物質の局所または全身投与が多用されているが、一度炎症が慢性化すると、治療を継続しても完治に至ることは殆ど無い。酪農現場における乳房炎の経済損失は年間800億円であり、新規感染を事前に防ぐための技術開発は、獣医畜産領域における最重要課題である。本研究では、近年注目されている“ナノテクノロジー”と“抗体療法”を融合することで、乳房炎起因菌の乳腺上皮細胞への付着を阻止するための抗体を、乳腺房内に徐放投与するための技術開発に挑戦している。研究初年度(平成26年度)は、黄色ブドウ球菌感染を阻止するための黄色ブドウ球菌特異的ポリクローナル抗体を、ホルスタイン種を用いて作製することを主たる目的として研究を実施した。具体的には、ホルスタイン種に、黄色ブドウ球菌および大腸菌の混合死菌を、強力な免疫活性化作用を有するアジュバント(TiterMax)とともに複数回皮下投与することで、ポリクローナル抗体を作出した。その結果、非常に力価の高い抗体を作出することに成功した。また、Protein Gを用いたその後の処理により、黄色ブドウ球菌特異的ウシIgGの精製に成功した。現在、本黄色ブドウ球菌特異的ポリクローナル抗体を用いた、黄色ブドウ球菌感染阻止効果を、in vitroで検証中である。
2: おおむね順調に進展している
これまでに、黄色ブドウ球菌を特異的に認識するウシポリクローナル抗体を、乳牛(ホルスタイン種)を用いて作製することに成功している。これは、研究初年度の最大の目的であり、また、既に多量のIgG精製も完了していることから、期待していた成果は十分得ていると判断できる。一方で、in vitro試験による、作製した抗体の中和効果判定評価に関しては、現在進行中であるが、数ヵ月以内には、解析結果が得られると思われることから、研究初年度の達成度は「おおむね順調に進展している」とした。。
平成27年度は、以下の2つの研究を実施する。1:ナノゲルとウシポリクローナル抗体との複合体作製 黄色ブドウ球菌特異的ポリクローナル抗体とナノゲルとの相互作用について、サイズ排除クロマトグラフィー法、CDスペクトル法、動的光散乱法、電気泳動などを駆使することで検討し、ナノゲルへの抗体複合化技術を確立する。また、蛍光標識したウシポリクローナル抗体をナノゲルに複合化させることで、乳房炎起因菌の感染標的となる乳腺上皮細胞との相互作用についても 検討を加える。具体的な方法として、蛍光ウシポリクローナル抗体内包ナノゲルを投与した培養乳腺上皮細胞を、フローサイトメトリーおよび共焦点レーザー顕微鏡解析に供する。また、細胞との親和性を向上させるためにカチオン性分子を導入したカチオン性ナノゲルおよび、反応性分子を導入した架橋性ナノゲルについても同様の評価を行うことで、本研究に適した担体の選択を行う。2:抗体長期徐放性ナノゲル架橋マテリアルの設計と評価 抗体の長期徐放能を有するナノゲル架橋微粒子およびヒドロゲルを開発し、その機能を評価検討する。具体的には、反応性(アクリロイル基等)多糖ナノゲルに、チオール基を末端に有する4本鎖ポリエチレングリコール誘導体(反応性PEG)を混合させることで、ナノゲルが架橋され数百個集まったナノゲル架橋微粒子を調製する。本微粒子は、PEG鎖によりナノゲルが安定して架橋されたものであり、架橋点の加水分解反応により個々のナノゲルを放出することも可能である。これらのナノゲル架橋マテリアル作製においては、予めナノゲルとウシポリクローナル抗体を複合化させた状態でのマテリアル作製条件の検討を行うことで、抗体内包ナノゲル架橋マテリアルの作製手法を確立する。これらの試験を通して、次世代型乳房炎予防技術開発に向けた基盤を形成する。
分担者実施予定のナノゲルとウシポリクローナル抗体の複合体作製試験を平成27年度に集約的に実施することになったため。なお、研究を進行する上で、この変更は問題ではない。
ナノゲルとウシポリクローナル抗体の複合体作製試験を実施するために、平成27年度に分担者が使用する。
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