研究課題
乳用牛が罹患する疾病の中でも最も発病頻度の高い乳房炎は、乳腺房内に黄色ブドウ球菌などの病原微生物が感染することで引き起こされる。一般的な乳房炎の治療法として、抗生物質の局所または全身投与が多用されているが、一度炎症が慢性化すると、治療を継続しても完治に至ることは殆ど無い。酪農現場における乳房炎の経済損失は年間800億円であり、新規感染を事前に防ぐための技術開発は、獣医畜産領域における最重要課題である。本研究では、近年注目されている“ナノテクノロジー”と“抗体療法”を融合することで、乳房炎起因菌の乳腺上皮細胞への付着を阻止するための抗体を、乳腺房内に徐放投与するための技術開発に挑戦する。研究初年度では、ホルスタイン種に黄色ブドウ球菌(死菌)を接種することで、ウシ抗黄色ブドウ球菌特異的ポリクローナル抗体の作製に成功した。研究2年目は、作製したウシ抗黄色ブドウ球菌特異的ポリクローナル抗体をin vitroでの培養条件中に添加することで、黄色ブドウ球菌の増殖阻止が可能であることを実証することに成功した。この成果は、in vitroでの培養条件下で、抗体を用いて黄色ブドウ球菌の増殖阻害を可能にした世界で初めての成果であった。現在、黄色ブドウ球菌の表層に発現するどの分子にウシ抗黄色ブドウ球菌特異的抗体が反応することで、この増殖阻害が引き起こされるのかを追求すべく、プロテオーム解析を駆使した研究を継続している。最終年度は、このウシ抗黄色ブドウ球菌特異的ポリクローナル抗体をナノゲルに被覆することで、乳房内での徐法投与を可能にする技術開発に挑戦する。本研究は、安定した畜産経営に科学的に貢献するための現場ニーズ対応型実用研究であり、成功した暁の経済効果は計り知れない。
2: おおむね順調に進展している
ウシ抗黄色ブドウ球菌特異的ポリクローナル抗体を用いて、黄色ブドウ球菌の増殖阻害を実証することに成功している。最終年度の試験を通して、この黄色ブドウ球菌特異的ポリクローナル抗体の乳房内での徐法投与を可能にする技術開発に挑む環境が整っている。
抗体の長期徐放能を有するナノゲル架橋微粒子およびヒドロゲルを開発し、その機能を評価検討する。具体的には、反応性(アクリロイル基等)多糖ナノゲルに、チオール基を末端に有する4本鎖ポリエチレングリコール誘導体(反応性PEG)を混合させることで、ナノゲルが架橋され数百個集まったナノゲル架橋微粒子を調製する。本微粒子は、PEG鎖によりナノゲルが安定して架橋されたものであり、架橋点の加水分解反応により個々のナノゲルを放出することも可能である。ナノゲル架橋微粒子の合成手法は既に確立されているものであるが、本研究では、この架橋構造や架橋点の数によるナノゲル放出制御挙動をより詳細に解析することで、抗体の安定した長期徐放を可能にするためのナノゲル架橋微粒子の調整を行う。また、反応性ナノゲルと反応性PEGの濃度を増加させることで、マクロゲルも作製する。これらのナノゲル架橋マテリアル作製においては、予めナノゲルとウシポリクローナル抗体を複合化させた状態でのマテリアル作製条件の検討を行うことで、抗体内包ナノゲル架橋マテリアルの作製手法を確立する。
分担研究者への分配金の一部が一部繰越となったため。ただし、研究を遂行する上での問題は生じていない。
最終年度に、研究2年目に得られた成果の再現性検証試験経費として利用する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 3件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (16件) (うち招待講演 4件)
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