研究課題/領域番号 |
26660246
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
青木 不学 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (20175160)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 初期胚 / 卵 / 母性因子 / CRISPR/Cas |
研究実績の概要 |
受精後の初期発生の調節に、受精前の卵成長期に蓄えられたmRNAから翻訳される因子(母性因子)が重要な役割を果たしていると考えられているが、その詳細は明らかとなっていない。そこで、本研究においては、近年開発されたRNAシーケンスとCRISPR/Casシステムを用いて母性因子の網羅的探索とその機能解析を行うための実験系を確立することを目的とした。 そこでまず、未受精卵ではほとんど翻訳されていないが、受精後に、poly-A鎖が伸長して翻訳が増加する母性mRNAを網羅的に探索するため、全RNAとオリゴdTカラムで抽出したRNAサンプルでRNAシーケンスを行った結果を比較して、受精後にオリゴdTカラムで抽出してものの割合が増加する遺伝子をふるい分けた。さらに、データベースを用いて卵特異的に発現しているものを選び出すことで、数十の母性因子の候補を得ることができた。 一方、当研究室でそれまでCRISPR/Casシステムを用いた経験がなかったため、候補遺伝子の解析に入る前に、まず機能が既知の遺伝子(c-Mos)についてノックアウトを試みた。その結果、モザイクに変異が入るものの効率良くノックアウトできることが確認できた。したがって、一旦、第1世代のノックアウトマウスをwildタイプと交配させることにより、モザイクでないヘテロを作成し、その後にこのヘテロ同士を交配させるシステムで完全な(モザイクではない)ホモを作成することとした。現在は、このシステムによる候補遺伝子のノックアウト作成を準備中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画は、研究実績の項で記したように、母性因子を網羅的に探索することである。そのため受精後のpoly-A鎖の伸長に着目し、さらに卵特異的な発現を示す遺伝子を抽出したところ、数十の候補を得ることができた。そしてこれらの中には、すでに母性因子として報告されているものも含まれていたが、大部分が報告されていなかったものであったことから、母性因子の網羅的探索の第一段階としての候補の探索は十分に達成されたものと考えられる。 また、CRISPR/Casシステムによる遺伝子のノックアウトについても、予備的実験において90%という非常に高い変異導入効率を得られたことから、今後の実験を順調に進めることができるものと期待される。ただし、第1世代のほとんどがモザイクに変異が入っていたことから、完全なホモのノックアウトマウスを得るためには、2段階の交配が必要であることが明らかとなった。このことは、実験を完遂させるためにはより長い時間が必要であることを意味している。 以上、本研究プロジェクトは、ここまでの結果で十分な進展があったものと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)ノックアウトによる母性因子の同定 ①これまでに得られた母性因子の候補からいくつかの遺伝子について、CRISPR/Casシステムによるノックアウトマウスを作成する。受精後の初期胚特異的に機能する母性因子であれば、それをノックアウトしても順調に発生するはずである。 ②2段階の交配により得られたホモ・ノックアウトの雌マウスから成長卵を回収し、これを体外受精してその後の発生を調べる。発生に異常が見られたものを母性因子として同定する。 (2) 母性因子の機能解析 母性因子と同定されたタンパク質の構造を調べることにより、その機能を推測する。ノックアウトマウスから得られた卵を受精させた胚において、推測された機能についての解析を行う。例えば、遺伝子発現調節の異常については、RNAシーケンスによる遺伝子発現の解析、細胞周期の異常については、CDK1あるいはCDK2の活性化調節機構についての解析を行う。
|