研究課題/領域番号 |
26660248
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
永岡 謙太郎 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (60376564)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 脳機能 / アミノ酸代謝酵素 / 母乳 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、これまでミルク中の抗菌物質として知られていたアミノ酸代謝酵素L 型アミノ酸オキシダーゼ(LAO)の新しい機能、海馬における記憶と学習効果を明らかにすることである。 今年度の成果は以下の通りである。 <LAO ノックアウトマウスの行動解析評価> 海馬依存性の記憶と学習テストの一つである受動的回避試験において、LAOノックアウトマウスは野生型マウスに比べ、学習および長期記憶成績が有意に悪い結果が得られた。しかしながら、空間学習を評価するモリス式水迷路においては、ノックアウトマウスの方が野生型マウスに比べ成績が良い傾向が得られている。一方、活動量や情動性を評価するオープンフィールド試験、不安行動を評価する高架式十字迷路において、両マウスの成績に差は認められなかった。 <養母交換および仮親処置による行動解析評価>LAOノックアウトマウスに認められる記憶と学習能の変化が、母マウスのミルクLAOに起因するかどうかを検討するため養母交換をおこなった結果、受動的回避試験については母マウスのミルクに関係なく、仔マウスのLAO遺伝子型によって成績が変化することが明らかとなった。一方、モリス式水迷路については、母マウスのミルクの違いにより成績結果に影響が認められた。 <マウス脳内LAO発現解析>脳内の各部位におけるLAO遺伝子発現を確認するため、嗅球、大脳皮質、海馬、小脳からRNAを回収しリアルタイムPCRを行った結果、微量ながら海馬においてLAO mRNAの発現が確認された。 <マウスミルク中メタボローム解析>野生型マウスおよびLAOノックアウトマウスのミルクを用い、アミノ酸や有機酸など400成分についてメタボローム解析を行った結果、主成分分析により明らかに差が認められ、特にフェニルアラニン、タウリン、ケトグルタル酸などの含有量が異なることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在の進捗は順調に進展していると言える。 受動的回避試験、オープンフィールド試験、高架式十字迷路試験、さらに今年度の備品により購入したモリス式水迷路試験といった一連の行動解析が順調に実施され、LAOノックアウトマウスは明らかに記憶と学習能に変化が生じていることが明らかとなった。また、養母交換や仮親処置後の行動解析試験も前倒しで開始しており、LAOノックアウトマウスの行動様式における全体像が見えつつある。受動的回避試験においては仔マウスのLAO発現遺伝型が、モリス式水迷路においては母マウスのLAO遺伝型によるミルクの違いが関与するといった新しい発見が得られた。すなわち、同じ記憶と学習試験でも、そのモチベーションの違いによりLAOが関与する脳機能も関与の仕方も異なることが示唆された。事実、LAOはミルクの成分を大きく変化させており、また、ミルク中のみならず微量ではあるが海馬の局所において発現が認められることが今年度の研究結果により明らかとなり、生体内におけるLAOの役割は多岐にわたる可能性が考えられる。 今年度に実施しなかった「マウス脳内メタボローム解析」については、既にサンプリングは済んでおり、進捗の遅れに影響は無い。より有益なデータとするため海馬サンプルだけでなく、同個体の血液サンプルも併せて解析を行う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
基本的には前年度に引き続き解析を行う。 養母交換および仮親処置後の行動解析を完了させ、LAOノックアウトマウスの行動様式における全体像を把握する。記憶と学習を制御する海馬について、BrdUの取り込みや神経細胞マーカの染色といった組織学的検査や脳機能を司る遺伝子群について解析を行う。マウスの海馬内と血中メタボローム解析を早急に行い、これまでの結果(LAO ノックアウトマウスの海馬にて、グリシンと GABA 濃度が低下している)に加え、海馬内、または血液中で変化するアミノ酸および有機酸代謝物のリストアップを行う。その上で、マウスに対する静脈内、または海馬内直接投与実験を行い、記憶と学習試験に与える効果の検証を開始する。 一方、ミルクのメタボローム解析の結果より、LAOにより含有量が大きく異なるアミノ酸や有機酸代謝産物が明らかとなった。これらの因子が、哺乳期における仔マウスの脳発育に重要な役割をもつことが推察されることから、同様にマウスに対する投与実験を行う。また、新しい研究計画として、ミルク中成分が脳発育に効果を示すかの検討をin vitroでも検討を行いたい。マウスのニューロン、またはグリア細胞の分離培養を行い、各成分が軸索の伸長やスパイン形成の促進など神経発達の指標について解析を行いたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度、実施予定であった脳内のメタボローム解析を次年度に延期したため、その消耗品等分の助成金の繰越を希望いたします。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は、主に実験動物品、遺伝子解析試薬、メタボローム解析試薬などの消耗品費を中心に、旅費として京都大学での研究打ち合わせを2回、国内研究発表1回、その他として論文投稿費の使用を予定している。
|