本研究は、アミノ酸代謝酵素の一つであるL 型アミノ酸オキシダーゼ(LAO)の海馬における記憶と学習に対する影響を明らかにすることであり、以下に 2年間の研究成果について報告する。 <LAO ノックアウトマウスの行動解析評価> 海馬依存性の記憶と学習テストの一つである受動的回避試験、およびモリス式水迷路において、LAOノックアウトマウスは野生型マウスに比べ、学習成立および長期記憶成績が有意に悪い結果が得られた。一方、活動量や情動性を評価するオープンフィールド試験、不安行動を評価する高架式十字迷路において、両マウスの成績に優位な差は認めらなかった。 <養母交換による行動解析評価>LAOノックアウトマウスに認められる記憶と学習能の変化が、母マウスのミルク中LAOが仔マウスの脳発育に影響を与えた結果かどうかを検討するため、養母交換をおこなった結果、受動的回避試験については母マウスのミルクに関係なく、仔マウスのLAO遺伝子型によって成績が変化することが明らかとなった。また、脳海馬においてLAOタンパクが存在することを確認した。興味深いことに、モリス式十字迷路については、母マウスのミルクの違いにより成績結果に影響が認められた。 <マウスミルクおよび海馬中メタボローム解析>野生型マウスおよびLAOノックアウトマウスのミルクおよび海馬抽出物を用い、アミノ酸や有機酸など400成分についてメタボローム解析を行った結果、主成分分析により明らかに差が認められ、特にフェニルアラニン、タウリン、ケトグルタル酸などの含有量がミルクと海馬内ともに異なることが明らかとなった。 以上の結果から、LAOノックアウトに認められる記憶と学習の変化は、海馬に発現するLAOが局所的にアミノ酸代謝を行い脳機能に関与することと、ミルク中に含まれるLAOが代謝するアミノ酸が子の脳発達に影響を及ぼす2通りの可能性が示唆された。
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