本研究では、近年開発されたゲノム編集技術であるCrispr/Cas9システムを用いて、受精を阻害できる遺伝子を性染色体にノックインし、この遺伝子をもつ精子の受精を阻害することで雌雄の産み分けを可能にする技術の開発を目的とした。 導入遺伝子はプロタミン1プロモーター制御下において、受精を阻害することが予測される遺伝子を構築した。本研究では、X染色体に目的遺伝子を導入するため、ヘテロクロマチン領域および機能遺伝子領域を避けた部位でかつ、Crispr/Cas9システムによって認識される、オフターゲットの少ないものを選定し、この配列中のPAM配列を切断するcrRNAを合成した。また、ノックインする遺伝子を持つプラスミドについても同様にcrRNAを合成した。これらの2本のcrRNAにはCAS9認識配列を持つtracrRNAが相補的に結合できる配列を付加して、gRNAとした。CAS9によって切断される性染色体の上流50bpとプラスミド状の導入遺伝子の上流50bp、また導入遺伝子の下流50bpとCAS9により切断される性染色体の下流50bpをそれぞれ接続した計100 bpのオリゴDNA(ssODN)を2本作製した。 以上のように作製した導入遺伝子、crRNA、tracrRNA、Cas9 mRMA、ssONAを同時にマウス受精卵に顕微注入し、遺伝子組換えマウスを作出した。得られた産子27匹(♂13匹、♀14匹)について、実際に産み分けができるかどうかについて交配実験を行った結果、現時点で6系統の雄において結果が得られたが、雄だけしか生まない系統は得られなかった。他の雄系統においても交配実験を継続中であり、雌系統においては交配により雄系統の確立を行っている。
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