テナガショウジョウバエ(Drosophila prolongata)の単一メス由来自殖系統群の解析から、その行動には大きな種内変異があることが明らかになっている。行動に多様性をもたらす責任遺伝子座を特定するために、オスの求愛行動とメスの交尾受容性について顕著に異なる2系統の間で行動の表現型による選抜と戻し交雑を繰り返すことにより、イントログレッション系統を作製した。これらの系統では、一方の親系統のゲノムバックグラウンドに他方の親系統由来の微小な染色体領域(行動多様性をもたらす責任遺伝子座を含む)が導入されていると期待される。最終年度はこれらイントログレッション系統のゲノム配列解析により染色体組換え領域の特定を行った。独立に得られた3つのイントログレッション系統のゲノム配列をHiSEQにより解析し、得られたリードを親系統のゲノム配列(約5千本のコンティグで構成される)にマッピングした。その上でSNP解析を行い、それぞれの親系統由来のアリル頻度をコンティグごとに算出した。さらにこれらのコンティグをキイロショウジョウバエのゲノム配列上にマッピングすることで、イントログレッション系統において他方の親系統由来のSNPが高頻度で検出される染色体領域を特定した。その結果、配偶行動に多様性をもたらす責任遺伝子座が含まれるのは第3染色体の約3Mbの領域であることが分かった。この領域には、キイロショウジョウバエゲノム上では476個の遺伝子が含まれており、そのうち行動に関わる機能を持つことが知られているものが8個存在した。これらの中に配偶行動多様性の責任遺伝子が含まれると考えられる。本研究により、性淘汰において重要な役割を果たすオスの求愛行動とメスの交尾受容性に多様性が生じる仕組みについて、一部ではあるが初めてその遺伝的基盤を明らかにすることができた。
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