研究課題/領域番号 |
26660265
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
玉田 靖 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (70370666)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | シルク繊維 / ペプチド / QCM / エレクトロスピニング |
研究実績の概要 |
昨年度までに設計・合成したフィブロインH鎖タンパク質の結晶モチーフを改変したペプチドについて、結晶モチーフペプチドとの結合性について水晶発振子微量天秤(QCM)により検討を行った。結晶モチーフ配列(SGAGAGS)でこの配列の中間にプロリンを挿入したペプチド(SGAPAGSGAPAGS)の結晶モチーフへの結合における解離定数は1.67x10e-3であり、結晶モチーフ配列をもつペプチドの3.74x10e-4と比較して高く、結晶モチーフ配列にプロリンを挿入することで、結晶モチーフの結合を弱めることが出来ることが分かった。 改変結晶モチーフペプチドによるシルクフィブロイン繊維の構造・物性測定を試みた。結晶モチーフ間に構造を乱すプロリンを挿入したペプチド(SGAGAGPPPGAGAGS)をフィブロイン水溶液に混合し、エレクトロスピニング法により微細ファイバーマットを作製した。紡糸後のマットの結晶化処理におけるフィブロインの構造変化を調べたところ、改変ペプチドを混合したマットにおいては、結晶化が妨げられることが観察された。改変ペプチドにより結晶性の低減が可能となる可能性が示唆された。機械的物性の評価を行ったが、マット形状での測定では、正確な測定が出来ないことが分かったため、次年度はエレクトロスピニングを円板をターゲットとして作製し、繊維束としての測定を行う。 農研機構(農業生物資源研究所)のご協力により、結晶モチーフの長さや量を変えた遺伝子組換えフィブロインを作製し、結晶・非晶のバランスを変えることによるフィブロイン材料の物性への影響について検討を始め、フィルムや微細ファイバーマットの作製が可能であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エラスティックシルク創製のための結晶領域モチーフを改変したペプチドについて、設計で予想したように、結晶モチーフの結合性の低減や結晶化プロセスを阻害する効果が発現されることが確認でき、また、エレクトロスピニングによる微細ファイバーマットの作製も可能となったことから、順調に進捗していると判断している。 また、農研機構(農業生物資源研究所)のご協力での結晶モチーフの改変による遺伝子組換えフィブロインの評価も始められたことから、エラスティックシルク実現へ順調に進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに、設計した改変結晶モチーフペプチドにより結晶モチーフ間の結合性の低減や結晶化プロセスの阻害の可能性が示唆されたので、さらに数種の改変ペプチドによる適正化を行なうとともに、それらのペプチドを含んだフィブロイン溶液からエレクトロスピニング手法により繊維束を作製し、得られた繊維の力学物性測定と構造解析を実施し、エラスティックシルク創製のための基礎知見を蓄積する。
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次年度使用額が生じた理由 |
数種の効果を持つペプチドを見出したことから、その知見を基にさらに新たなペプチド合成を予定したが、現存ペプチドによる確認評価を進めた後に、適正な設計を持つペプチドを合成するべきと判断し、ペプチド合成を次年度に行うこととしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
数種の新たなペプチド合成を行うとともに、繊維束形成のために効果の高いペプチドについて追加で多量の合成を行う計画である。また、QCM測定が有効であったため、さらにQCMセンサーチップを購入する計画であり、本年度の請求額に合わせて使用する。
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