27年度に引き続きフィブロインH鎖タンパク質の結晶化を阻害すると推察している結晶モチーフを改変したペプチドについて、結晶モチーフ配列(GAGAGS)との結合性についての水晶発振子微量天秤による評価を続けたが十分な再現性を得ることが出来なかっため、低分子量物質の結合評価に有用な表面プラズモン共鳴法(SPR法)を用いて改変ペプチドの結晶モチーフ配列への結合性を評価した。その結果、結晶モチーフ配列を有する改変ペプチド(SGAGAGPPPGAGAGS)は結晶領域配列に結合できることが再確認できた。そこで、この改変ペプチドによりシルクフィブロイン繊維の力学物性を改変することが可能であるかを検証するために、フィブロインと改変ペプチドを混合した水溶液から円板コレクタを用いたエレクトロスピニングによる繊維束の形成は困難であった。そこで、27年度に成功した不織布マットを撚糸処理することで繊維束を作製し、引っ張り試験を実施した。改変ペプチド含有のシルクフィブロイン繊維束の引っ張り弾性率は、未混合のフィブロイン繊維束に比較して半分程度に低下し、当初の目的である改変ペプチドによるシルク繊維の弾性率低下が達成出来ることが分かった。しかし、同時に引っ張り強度および伸びについても低下したために、ペプチドの混合比の検討やペプチドの再設計が必要であることも判明した。本課題の応用として再生医療用足場材料としての活用を考えているため、改変ペプチド混合フィブロインフィルム上での細胞培養評価を実施したところ、改変ペプチド混合により細胞接着性に影響を与えなかった。また、27年度の結晶モチーフの長さや量を改変した遺伝子組換えフィブロイン繊維についての力学物性評価を行ったが、今回の試料間においては有意な差は見られなかった。
|