研究課題
昆虫の脱皮・変態は前胸腺が分泌するエクジステロイドにより誘導される。前胸腺によるエクジステロイド合成は前胸腺刺激ホルモン(PTTH)によって調節されるが、そこでは、PTTH分泌量のみならず前胸腺のPTTH受容体発現量も重要な調節要因となる。本研究では、PTTH受容体研究の一環として新規受容体の同定を目指しており、26年度は以下の研究を行った。1)前胸腺に存在するPTTH結合タンパク質の検出と発現時期の解析:カイコガ終令幼虫の前胸腺を1日毎に採取し、PTTHとインキュベートした後に化学架橋し、膜画分から可溶化したタンパク質をPTTH抗体を用いてウェスタンブロット解析した。その結果、ワンダリング開始後2日目以降に約100-130kDaのバンドが2本検出された。これらをPTTH受容体の候補とした。2)PTTH受容体(候補)の精製法の開発:始めに免疫沈降による精製を試みた。化学架橋後のPTTH-受容体結合物を可溶化し、PTTH抗体による免疫沈降物をウエスタン解析すると、抗体由来のバンドが100-130kDa付近に出現し、目的のバンドの検出が困難であった。そこで、Hisタグ付きPTTHと受容体を化学架橋し、固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)による精製を試みた。その結果、精製物のウエスタン解析により、目的のバンドが検出された。3)質量分析による精製物の同定:IMACにより、1000個の前胸腺からHis-PTTH-受容体結合物を精製し、SDS-PAGEで分離した。100-130kDa付近のバンドを切り出し、トリプシン消化したのち質量分析に供した。しかし、カイコガゲノムデータベースを使って同定されたタンパク質の中に、PTTHも有力な受容体候補タンパク質も検出されなかった。この結果より、現時点では、目的タンパク質の回収量も精製度も不十分であると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
Hisタグ付きPTTHと受容体候補を化学架橋してから可溶化し、IMACにより精製することによりPTTH-受容体結合物を得ることまでは進んだ。また、質量分析によるタンパク質の同定の試行も予定通りである。しかしまだ、目的とする受容体タンパク質の同定までには至っていない。その理由は、質量分析に供したサンプル中のPTTH-受容体結合物の量が不十分であったことにある。サンプルが不十分となった原因はいくつか考えられる。1)前胸腺膜画分からの目的タンパク質の可溶化が不十分、2)IMACによる精製における回収率が低い、3)サンプルの精製度が十分に高くない、4)出発材料の前胸腺が1000個では不十分、などである。今後はこれら全ての点について改善を図り、効率的な精製を目指す予定である。
先ず第一に、精製の効率化を図ることである。自己評価欄に記した点について改善を図り、27年度中に目的タンパク質を同定することを目指す。同定に成功すれば、当初の計画に沿って研究を進める。計画の概要は以下のとおり。1.受容体候補タンパク質のPTTH結合能の確認2.新規PTTH受容体遺伝子の発現動態の解析3.新規PTTH受容体の特徴づけ4.新規PTTH受容体遺伝子ノックアウト実験
次年度使用額の667円は26年度の支出の残額であるが、基金なのでそのままとした。
27年度の請求額と合わせて使用する。小額なので、当初の助成金の使用計画には影響がない。
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Insect Biochem. Mol. Biol. 58, 39-45.
巻: 58 ページ: 39-45
http://dx.doi.org/10.1016.j.ibmb.2015.01.001
Peptides
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Cell Tiss. Res.